Opinion

地震被害の多い場所~どこが危険で安全か?

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執筆:村井俊治 東京大学名誉教授
株式会社地震科学探査機構取締役会長

地震の被害が大きい場所は、巨大地震の発生した地域になるわけですが、同じ地域内でも地形・地物条件や地盤や立地条件によって被害の程度は大きく異なります。地震被害は地震の揺れによって引き起こされる家屋や構造物の倒壊や破壊だけでなく、火災、津波、液状化、地下埋設管の破壊など様々な被害が生じます。交通遮断による帰宅困難や食料などの生活必需品の枯渇なども深刻です。また避難所に収容された高齢者の関連死も高齢化社会では深刻になっています。以下に様々な観点から地震被害について考察を致します。

日本列島のどこが危ないか?

信用できる歴史的文書が残されているのは大体400年前と言われていますが、最近は縄文時代でも堆積物などの発掘により巨大津波の痕跡を科学的に検証できるようになりました。日本で起きたM8以上または震度7(1995年以降のみ)の巨大地震のうち歴史文書や発掘調査などで信頼度の高い事例を列挙します。

紀元前~4世紀

紀元前4世紀~3世紀
三陸から房総にかけてM9クラスの巨大海溝型地震・津波が発生(堆積物の発掘から)
被災地:東北・茨城県・千葉県の太平洋岸

紀元前後
M9クラスの南海トラフ巨大地震・津波の発生の可能性あり(堆積物の発掘から)。
被災地:四国・近畿・東海太平洋岸

4世紀~鎌倉時代

4世紀~5世紀
三陸から房総にかけてM9クラスの巨大海溝型地震・津波が発生(堆積物の発掘から)。
被災地:東北・茨城県・千葉県太平洋岸

684年
白鳳地震(南海トラフ地震)
M8クラスの地震・津波(日本書紀に記述あり)。
被災地:四国・近畿・東海太平洋岸

818年
弘仁地震
M7.9、関東内陸で液状化を伴う地震で死者多数(『類聚国史』より)。
被災地:関東地方

869年
貞観地震
M8.3~M8.6:陸奥国の大振動および津波で死者1,000人(『日本三代大実録』より)。
被災地:青森県・岩手県・宮城県・福島県

887年
仁和地震
M8~M8.5:五畿七道(京都、摂津で死者多数)津波あり(『日本三代実録』より日本三大実録)。
被災地:近畿地方・東海・関東太平洋岸・東北太平洋岸

1096年
永長地震
M8~M8.5:東海道沖または南海トラフ地震で死者約1万人。
被災地:東南海

1293年
鎌倉大地震
M8クラス、死者2万3千人。被災地:神奈川県

室町時代~安土桃山時代

1361年
正平・康安地震
M8.25 ~M8.5:津波あり。摂津、阿波、土佐で津波被害甚大。
被災地:大阪府・兵庫県、徳島県、高知県。

1454年
享徳地震
M8.4超:会津で強震、奥州海岸に大津波。
被災地:福島県・東北太平洋岸。

1498年
明応地震
M8.2~M8.4:伊勢、駿河で大津波、死者3万人~4万人以上。浜名湖が海と繋がる。鎌倉の大仏殿が流される。
被災地:東海。

1586年
天正地震
M7.8~M8.1(飛騨、美濃、近江など東海東山道地震;三河湾と若狭湾で津波記録あり:複数の地震が同日に発生か)
被災地:岐阜県・滋賀県・愛知県、福井県。

 

江戸時代

1605年
慶長地震
M7.9~M8.0:津波による死者1万人~2万人。
被災地:関東から九州までの太平洋岸。

1611年
慶長三陸地震
M8.1:震源三陸沖。伊達藩で死者2,000~5,000人。
被災地:東北地方の太平洋岸。

1677年
延宝房総沖地震
M8.0:死者500~600人。
被災地:福島県、茨城県、千葉県の太平洋岸。

1703年
元禄地震
M8.1~M8.2:関東南部に津波で死者6,700人。
被災地:関東南部の太平洋岸。

1707年
宝永地震
M8.4~M8.6:南海トラフ全域の地震。津波あり。死者4,900人~2万人以上。地震49日後に富士山大噴火。
被災地:伊豆、伊勢、紀伊、阿波、土佐。

1771年
八重山地震
M7.4~M8.7:津波遡上高30m。津波は海底地すべりで起きた可能性あり。 石垣島および宮古島に津波岩あり。
被災地:南西諸島から房総半島までの太平洋岸。

1793年
寛成地震
M8.0~M8.4:陸中から常陸にかけて津波あり。死者:約100人。
被災地:岩手県から茨城県までの太平洋岸。

1843年
天保十勝沖地震
M7.5~M8.0:厚岸に津波あり。
被災地:十勝沖。

1854年
安政東海地震(死者2千人~3千人)
M8.4。房総半島から四国に津波あり。特に伊豆から熊野が被害甚大。

1日違いの連動:安政南海地震(死者1千人~3千人)
M8.4:紀伊、土佐で津波被害甚大。「稲むらの火」のモデルになった津波。道後温泉の湯が数か月ストップ。
被災地:千葉県から四国までの太平洋岸。

1855年
安政江戸地震(安政の大地震)
M7.0~M7.1:M7クラスだが死者数が多いため例外的に掲載。死者は4,700人~1,1万人と多数。
被災地:東京都。

明治時代以降

1891年
濃尾地震
M8.0:濃尾平野北西部が最大震度。横ずれ最大8m、縦ずれ最大6mの根尾谷断層が生じた。死者・行方不明者:7,273人。
被災地:岐阜県。

1894年
根室半島沖地震
M7.9 ~M8.2:北海道・東北に津波あり。
被災地:北海道、東北地方。

1896年
明治三陸地震
M8.2~M8.5:大津波発生:死者・行方不明者21,959人。最大震度は4だったが、津波被災地では震度2~3の弱い揺れだった。この地震を契機に「三陸海岸」の名称が広く使用された。
被災地:北海道から宮城県にまたがる太平洋岸。

1911年
喜界島地震
M8.0:震源は奄美大島近海とされるが異説あり。南西諸島では有史以来最大規模の地震。奄美大島に5m以上の津波あり。
被災地:南西諸島。

1918年
択捉島沖地震
M8.0~M8.3:ウルップ島(択捉島北東に位置する)で家屋全滅、住民63名中死者24人。最大10~12mの津波あり。
被災地:ウルップ島、択捉島。

1923年
関東大震災
M7.9: 死者・行方不明者:105,383人(主として火災による:日本史上最大の被害)。神奈川県および千葉県南部が震度7、関東南部と山梨県が震度6。
被災地:関東南部、山梨県。

1933年
昭和三陸地震
M8.1:震源は三陸沖で大津波発生:死者・行方不明者3,064人。
被災地:岩手県、宮城県、福島県、茨城県。


1944年
昭和東南海地震
M7.9:震源は三重県沖。最大津波高8~10m。三重県、愛知県、静岡県で被害甚大。戦前だったために軍の機密保持のために死者・行方不明者数は不正確だが1,223名とされる。東海地域の軍需工場が壊滅的に破壊された。
被災地:三重県、愛知県、静岡県。

1946年
昭和南海地震
M8.0:震源は潮岬南方沖。死者・行方不明者1,443人。南西日本で地震動と津波被害甚大。津波高は4~6m。
被災地:死者の多い順に高知県、和歌山県、徳島県、香川県、岡山県、兵庫県、大阪府。

1952年
十勝沖地震
M8.2:北海道から東北に津波あり。死者・行方不明者:33人。
被災地:北海道浦河町、帯広市、本別町、釧路市。

1958年
択捉島地震M8.1:太平洋岸に津波あり。
被災地:釧路市。

1963年
択捉島地震
M8.1:択捉島から宮城県まで津波観測。
被災地:北海道浦河町、帯広市。

1968年
十勝沖地震(三陸北部地震とも呼ばれる)
M7.9 :震源は青森県東方沖。三陸海岸で5mの津波あり。死者・行方不明者52人。
被災地:北海道、青森県。

1983年:日本海中部地震
M7.7:震源は秋田県沖。津波あり。死者104人。
被災地:秋田県、青森県、北海道

1993年
北海道南西沖地震
M7.8:奥尻島に津波高16.8m、最大遡上高約30mの大津波あり。死者・行方不明者230名。
被災地:北海道道南、青森県

1994年
北海道東方沖地震
M8.2:震源は根室沖東方200km。平成に入って最初のM8クラス地震。死者9人、行方不明者2人。釧路市・中標津町・別海町・標津町の被害が甚大。
被災地:釧路市・択捉島ほか

1995年
兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)
M7.3(震度7):死者・行方不明者6,434人。日本初めての大都市直下地震。気象庁に新しい震度階級が導入されてから初めての震度7。震源は淡路島北部。
被災地:阪神を結ぶ大阪湾周辺および淡路島北部。

2003年
十勝地震
M8.0:震源はえりも岬東南東80kmの沖合。長周期地震動のため苫小牧市の石油タンクがスロッシング現象と呼ばれる共振を起こし、石油が関津賀こぼれ引火する事故が注目された。
被災地:北海道太平洋岸。

2004年
新潟中越地震
M6.8(震度7):震源は新潟県中越地方で震源の深さ13kmの内陸直下型地震。死者68人(内災害関連死52人)。上越新幹線が脱線事故あり。新幹線で初めての脱線事故。
被災地:新潟県。

2011年
東日本大震災
M9.0:大津波による被害甚大。津波高:10m以上多数箇所。最大津波遡上高約40m。死者・行方不明者約2万2千人(内災害関連死約3500人)。戦後最大の震災。福島原子力発電所にメルトダウン事故発生。
被災地:宮城県、岩手県、福島県に集中。

2015年
小笠原諸島西方沖地震
M8.1:震源の深さ682kmは1900年以降世界最深の地震。死者なし、負傷者13人。被害軽微だが1万9千台のエレベータが緊急停止し、うち4台が閉じ込められ客は約1時間に救出された。母島と神奈川県二宮町で震度5強。
被災地:東京都、神奈川県、埼玉県

2016年
熊本地震
M7.3(震度7):死者273人(内災害関連死218人)。2日前に震度7の前震あり。震源の深さ13kmの内陸型地震。前震、本震、余震で震度5以上の地震回数28回と多数。住宅全壊8667棟。熊本城の石垣一部崩壊。
被災地:熊本県、長崎県、大分県

2018年
北海道胆振東部地震
M6.7(震度7):震源は厚真町の内陸型地震。死者43人。山地の土砂崩れ災害が甚大。北海道全域で停電のブラックアウト。
被災地:北海道央・道南。

最近100年で上記のM8クラスの大地震が起きた数は18個です。最近200年で起きた大地震の数は26個です。単純に1個当たりの年数を計算しますと、最近100年間は約5~6年毎、最近200年間は約7~8年ごとに大地震が1回起きていたことになります。

死者の多かった地震

上に紹介した地震は規模の大きい地震を紹介しましたが、必ずしも地震の規模と被害の規模とは比例するものではないです。マグニチュードが小さい地震でも死者が多い地震もあります。明治時代以降で死者の多かった地震トップ10を列挙しますと次のようになります。

1位 1923年:関東大震災M7.9:死者・行方不明者: 105,385人
2位 1896年:明治三陸地震M8.2:死者・行方不明者: 21,959人
3位 2011年:東日本大震災M9.0:死者・行方不明者: 18,428人
4位 1891年:濃尾地震M8.0:死者・行方不明者:7,273人
5位 1995年:兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)M7.3:
死者・行方不明  :6,434人
6位 1948年:福井地震M7.1: 死者・行方不明者:3,769人
7位 1933年:昭和三陸地震M8.1:死者・行方不明者:3,064人
8位 1927年:北丹後地震M7.3 : 死者・行方不明者:2,912人
9位 1945年:三河地震M6.8:死者・行方不明者:2,306人
10位 1946年:昭和南海地震M8.0 : 死者・行方不明者:1,443人

1位の関東大震災、5位の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)、6位の福井地震、8位の北丹後地震、9位の三河地震は地震の規模はM8.0未満ですが死者の数は多く被害が甚大だったことが分かります。トップ10に入らないですが、1943年の鳥取地震では死者・行方不明者は1,083人、1944年の昭和東南海地震では死者・行方不明者は、1,223人と千人以上でした。1943年の鳥取地震、1944年の昭和東南海地震、1945年の三河地震、1946年の昭和南海地震と4年連続で死者・行方不明者が千人を超える大地震が起きました。1948年の福井地震を入れるとわずか5年間に5つの「千人を超える犠牲者が出た地震」がありました。大地震の周期説は全く当てにならないことが分かります。

地震被害の危険な場所

M8クラスまたは1995年以降は震度7の巨大地震の被災地を記入しましたが、地震被害が多かった地点が危険な場所と言えます。ただし過去の地震で甚大な被害があったから将来も危険かどうかは不明です。その逆も言えます。今まで被災を受けなかった場所が将来にわたって安全な場所とは言えません。地震は突発的に日本列島のどこでも起こり得ます。

上記の限界はありますが、被災地の分布で回数と犠牲者の多い場所を選びますと下記の地域が浮かび上がります。

圧倒的に被災が大きく、多い地域は、津波を伴う東北地方、南関東、東海、南海、九州から沖縄に至る太平洋岸です。県名を上げれば、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、神奈川県、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、徳島県、高知県、愛媛県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の太平洋に面した地域です。特に岩手県、宮城県、福島県は地震の常襲地帯となっています。地震地域である台湾に近い南西諸島も地震が多い地域ですが、地盤が硬く堅固なため地震の規模を表すマグニチュードが大きくても、揺れの大きさを表す震度は比較的小さいです。

首都の東京都は東京湾がバッファーになっていて津波を伴う地震では意外と被災していません。大阪府も同じで1995年の阪神淡路大震災および2018年の大阪府北部地震(震度6弱)のような内陸型地震で被災していますが、津波被害のような甚大な被害を逃れています。

意外と最近被害が大きく、多いのは北海道の十勝地方、釧路・根室地方です。青森県東方沖や十勝沖での地震も北海道および青森県の太平洋岸は要注意です。
内陸型地震で被災が多い地域は、新潟県、長野県、岐阜県、福井県の北信越です。2016年の熊本地震は突発的な大地震でした。熊本県、長崎県、大分県は甚大な被害を受けました。2005年の福岡県西方沖地震M7.0 (震度6弱)も福岡県にとっては突発的な地震だったと思われます。

地震被害の大きさは地震の規模にもよりますが、住宅や構造物の立地条件が大きく影響を及ぼします。河川敷や埋立地、盛土地区等などは揺れが大きく被害が大きくなります。埋立地では液状化が起きる危険が大で、特に二次被害が大きくなります。

地震に対して、どこが安全か?

度々日本列島のどこが安全かの質問を受けますが、答えがとても難しいです。前にいいましたが、過去に安全だったからと言って将来も安全であることを保障できないからです。日本列島はどこでも地震が起きる可能性があります。
しかし敢えて過去に大地震が起きなかった地域を探しますと、次の地域が指摘できます。

  1. 北海道の道南、十勝地方や釧路・根室地方の太平洋岸を除く地域
  2. 愛知県の太平洋岸を除く内陸
  3. 岡山県
  4. 香川県
  5. 愛媛県北東地域
  6. 佐賀県

国土交通省が建設告示1793号で定めた地震地域係数という概念があります。地震地域係数とは、耐震設計をする時に地域ごとに設定される係数で地震力の算定に用いられます。通常の地域は1.0ですが、地震の発生危険の少ない・もしくは過去に大きな発生しても被害が少なかった地域は係数が0.9、0.8、0.7まで低減できます。つまり係数が小さい地域は、過去に発生した地震の記録から、地震発生の可能性が小さい(または地震が発生しても被害が少ないと推定された)地域とされています。

係数が0.7に指定されている地域は沖縄県です。沖縄県は耐震設計上一番安全な場所になっています。次に係数が0.8になっている地域は、下記の表に出ている地域です。沖縄県および下記の表に出ている地域は、地震が発生しても被害の少ない傾向がある地域と言えます。ただし下記の表に出ている熊本県では2016年4月16日に震度7の熊本地震が起きましたので絶対安全であるとは保障できないです。

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