Opinion

大阪府の地震予測~大阪府の地震の過去・現在・未来

執筆:村井俊治 東京大学名誉教授
株式会社地震科学探査機構取締役会長

最近100年間で大阪府を襲った大きな地震

近代的な地震観測がなされるようになった約100年の間で大阪府が震度5弱以上の揺れを観測した地震はわずか3回です。ただし1995年に起きた阪神淡路大震災では大阪府に設置された気象庁の震度計は震度4でしたが、設置場所の地盤が堅固だったためと言われています。現地調査により大阪府の豊中市、池田市で震度6と判定されましたので4回あったと言ってよいでしょう。

1回目は1936年に起きた河内・大和地震(M6.4、震度5)です。震源は奈良県葛城市で、死者は全体で9人でしたが大阪府で8人、奈良県で1人でした。大阪府での負傷者は52人でした。家屋の全半壊は148戸と報告されています。大阪府の採石場で岩塊の崩落で2人が圧死し、50mの高さの煙突で作業中の作業員が落下死しました。奈良県にある世界最古の木造建築である法隆寺(607年創建と言われ約1300年の歴史あり)の仏像に破損や転倒が見られたのに対し、木造建築そのものに殆ど損傷がなかったことは世界中の人たちを驚かせました。

2回目は1995年に起きた阪神淡路大震災(M7.3、震度7)です。激甚被害は神戸市をはじめとする兵庫県に集中しました。戦後最大の震災と言われました。死者は6,434人でしたが、兵庫県の死者が6,402人で大阪府の死者は31人でした。負傷者は兵庫県が40,092人に対し大阪府は3,589人でした。被災者の多くは木造家屋の倒壊や家具の転倒などによる圧死でした。全壊家屋は兵庫県が104,004戸に対し大阪は895戸、半壊は兵庫県が136,952戸に対し大阪府は7,232戸、全焼は兵庫県が7,035戸に対し大阪府は1戸でした。大阪府の被害は兵庫県に比べれば遥かに少なかったと言えます。1978年に起きた宮城県沖地震の建築物の倒壊などに関する教訓から1981年に建築基準法施行令改正が行われ、新耐震基準が進みました。阪神淡路大震災においても1981年以前に建った家と1981年以降に建った家の被害状況は大きく違ったことが認められました。しかし、家屋の倒壊や損傷の調査から1995年に接合金物等の使用を奨励する「建物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」が制定されました。

3回目は2013年に起きた淡路島地震(M6.3、震度6弱)です。震源は淡路島北部で1995年に起きた阪神淡路地震の余震だという説もありますが否定する学者もいます。大阪府の震度は5弱でした。死者は出ませんでしたが、木造家屋の一部損壊が2000棟以上ありました。大阪で断水が15件発生しました。大阪ガスは大阪府を含む近畿2府3県で6万件の都市ガス供給が停止しましたので、ライフラインの被害は大きかったと言えます。この地震の5~10秒前に日本で初めて「緊急地震情報」が発信されましたが、多くの人たちは何を意味する警報か分からなかったというアンケートが残っています。

4回目は2018年6月18日に起きた大阪府北部地震(M6.1、震度6弱)です。震源は大阪府北部の高槻市に近い場所で、大阪府に本格的な内陸型地震が発生したとして多くの住民にショックをもたらしました。大阪市北区、高槻市、枚方市、茨木市、箕面市で最大震度は6弱を記録しました。

大阪は人口が多い都市なので、直接的な被害に加えて、ライフラインに対する二次災害が深刻です。地震の後で、電力やガス、水道、電車などに長い期間様々な被害が生じます。

電気に関しては地震発生後に停電が起こり、最大で約17万件が被害にあいました。地震の影響で関西電力からの電力供給に支障が出たためです。高層ビルや高層マンションで問題になるのはエレベータの停止です。高齢者にとっては5階以上の階段の昇り降りはかなりつらいでしょうから、生活への影響は大きかったと言えます。

ガスに関しては大阪ガスの供給支障が発生し、最大111,951戸でガスの供給がストップしました。水道に関しては震度6弱を観測した高槻市では断水や減圧給水が最大8.6万戸(19.4万人)になりました。箕面市や吹田市でも断水が発生し、箕面市では0.8万戸(2万人)、吹田市では30戸に影響を及ぼしました。

ほかにも通信関係ではNTT西日本で約15,000回線が不通、NTTドコモで17局、KDDI14局、ソフトバンクでも14局が停波する事態になりました。
また交通網では道路や鉄道に影響を及ぼし、高速道路の通行止めは発生しなかったものの、国道173号線の一部に通行止めが起こりました。

大阪府北部地震はミニプレートの境界で起きていた

地震が起きると、地震専門家はどの活断層が起因だったかを後から推察します。日本中に活断層は数千本もありますから大抵の場合一つぐらいは特定されます。ところが大阪府北部地震の場合は、特定は難しいと言われました。地下の断層が2つに分かれ、南北方向の逆断層と北東南西方向の横ずれ断層がそれぞれ動くことで溜まった歪が一気に解放されたと推定されました。

大阪府には次の活断層が走っています。

  • 有馬−高槻断層帯(兵庫県から京都府に延びる)
  • 三峠・京都西山断層帯(京都府から延び有馬−高槻断層帯に直交)
  • 生駒断層帯(大阪府と奈良県の県境に延びる)
  • 上町断層帯(大阪府西部に延びる)
  • 六甲・淡路島断層帯(兵庫県との県境付近から淡路島に延びる)
  • 大阪湾断層帯(大阪湾内)
  • 中央構造線断層帯(紀伊山地北部から和歌山県北部に延びる)
    出典:地震本部

大阪府北部地震は上記いずれの活断層とも特定されませんでした。
ところが(株)地震科学探査機構会長で東京大学名誉教授である村井俊治が開発した2018年版ミニプレート図に大阪府北部地震の震源をプロットしますと、なんとミニプレート①と④の境界で起きていたことが判明しました(下図参照)。

ミニプレート理論は、村井俊治著:地震予測は進化する! 「ミニプレート」理論と地殻変動 (集英社新書:2019年5月22日)を参照してください。

地震は断層だけが動くのではなく、ミニプレートの塊で動き、互いのミニプレートの押し合いや引っ張り合いによってひずみが蓄えられやがて臨界状態に達すると地震となって現れるという村井俊治の仮説を証明した事例となりました。

また(株)地震科学探査機構では大阪府北部地震の科学的検証を実施してホームページに掲載しています。

ミニプレートに関しては、On-Line講演会の動画「ミニプレート理論~地震は断層でなくミニプレートと相関が高い~」を参照してください。

大阪府を襲ったその他の大きな地震

100年以上前の地震の記録は100%信用できない面もありますが、陸域で発生した地震で大阪府に被害をもたらした地震を調べますと、1596年の慶長伏見地震(M7.5)があります。大阪府内では、堺で死者600余名とされています。

海域の南海トラフ沿いで発生する巨大地震により大阪府に被害を及ぼしたことがあります。例えば、1854年の安政南海地震(M8.4)では、大阪湾北部で高さ2m程度の津波が襲いました。また、木津川・安治川を逆流した津波により、船の破損、橋の損壊、死者多数(7,000名など諸説ある)などの被害があったとの記録があります。
1707年宝永地震は南海トラフ3連動の巨大地震でした。大阪にも津波が到来しました。宝永地震では旧大和川流域だった河内平野で特に倒壊被害が大きかったと言われています。

戦時中の1944年に起きた昭和東南海地震(M7.9)では、死者・行方不明1223人の内、大阪府では14名、1946年の昭和南海地震(M8.0)では、死者1362人の内、大阪府では32名などの被害が生じました。南海トラフ沿いで発生する巨大地震は安政や昭和のように東海地震(昭和は東南海地震)と南海地震が別々に連続して発生する場合と、宝永地震のように3連動(東海地震、東南海地震、南海地震)の地震、または日向灘地震を含めて4連動の地震が発生する場合があります。大阪府は、そのいずれの場合でも、地震動や津波による被害を受ける可能性があります。

大阪府の現在の状況

大阪府が地震に強いか否かを考えてみましょう。大阪は海を埋め立てて造った都市ですので、地盤は軟弱です。地震の揺れは、地盤が堅固な場所に比べて、震度でいうなら2程度大きくなります。つまり地震に弱い地盤と言えます。したがって液状化もしやすいです。過去には地下水汲上げ過剰により地盤沈下が激しかった時もありました。皮肉なことに地下水の汲上げを抑制したために地下水位が上昇し液状化が起きやすくなった面もあります。関西空港の建設時には大きな地盤沈下があってかなり苦労したと報告されています。(参考:関西国際空港

大阪府でも恐れられているのは、南海トラフ地震です。東海、紀伊半島太平洋岸、四国南岸、日向灘のように直接大きな津波(最大30m超から10mクラス)が大阪湾に到来するわけでないですが、過去の地震では2m~5mの地震が大阪に来たとされています。また、大阪府の場合は、地震の揺れによる直接的な被害に加え、ライフラインの機能停止による二次被害も深刻です。水道、ガス、電力、携帯電話、交通、エレベータなどが停止し使用不可能になることも大問題でしょう。

大阪府の将来の地震被害(南海トラフ地震)

大阪府の地震被害は海溝型の南海トラフ地震によるものが最大と考えられてきました。ところが2018年には、今までなかった内陸型の地震が大阪府北部地震(震度6弱)として起きたため、将来の地震対策に内陸型の直下地震も考慮する必要に迫られました。文部科学省の地震本部によると、今後30年に震度6弱以上の地震が大阪市で起きる確率は56%と言われています。

さて、ここからは南海トラフ地震を想定した将来の大阪府における被害想定を紹介します。大阪府の算定ではM9クラスの南海トラフ地震が起きた場合の被害想定は次の通りです。死者・行方不明者の人数が多いのは4~5mの津波を想定しているからです。

死者・行方不明者 約13万人(避難が迅速な場合は9千人まで減少)
負傷者 約15万人
全壊・全焼棟数 約18万棟
帰宅困難者数 約140万人
経済被害 約30兆円

内閣府が公表している「表層地盤のゆれやすさ全国マップ」によれば大阪市や堺市の沿岸部、高槻市、寝屋川市、門真市、大東市、東大阪市付近は揺れやすい地盤とされています。
内閣府:防災情報のページ

大阪府の次の市町村は防災対策推進地域に指定されています。

大阪市 堺市 岸和田市 豊中市 池田市 泉北郡
忠岡町
吹田市 泉大津市 高槻市 貝塚市 守口市 泉南郡
熊取町
枚方市 茨木市 八尾市 泉佐野市 富田林市 泉南郡
田尻町
寝屋川市 河内長野市 松原市 大東市 和泉市 泉南郡
岬町
箕面市 柏原市 羽曳野市 門真市 摂津市 南河内郡
河南町
高石市 藤井寺市 東大阪市 泉南市 四條畷市 南河内郡
千早赤阪村
交野市 大阪狭山市 阪南市 三島郡島本町 豊能郡豊能町

(出典:南海トラフ地震防災対策推進地域指定市町村一覧

大阪の地震予測

今後30年間でM9クラスの「南海トラフ地震」が起こる可能性は、70%~80%と予測されています。(出典:内閣府防災情報のページ:我が国で発生する地震

しかし、この確率がどのような理論と数式で算出されたかが明示されていない以上、科学者として鵜呑みにすることはできません。1995年に起きた阪神淡路大震災も甚大な被害が出た神戸市は安全な都市と考えられていました。いつ、どこで巨大地震が起きるかは次に述べる考え方でしか予測はできないと考えます。

  1.  日本列島を含む地球は常時刻々と変動をしているので、日本列島が三次元的にどのような変動をしているかを科学的に常時観測した上で、どこに異常なひずみが出ているか分析することによって地震予測ができるはずです。昔と現在の日本列島は全く異なる地殻変動をしていると思わなくてはなりませんので、昔に発生した巨大地震と同じ土俵で現在・未来の日本列島で発生する地震について議論することには無理があります。
  2. 三次元的な地殻変動以外にも、地震の前には様々な前兆現象があることが分かってきました。搬送波位相の異常、インフラサウンド、疑似気温の擾乱、空中電気、宇宙から見た地震雲などです。三次元的な地殻変動に加えて、これらの前兆現象を総合的に分析することにより、精度の高い地震予測を確立することができると考えます。実際の地震は地下深いところで起きますが、地下の深い場所を直接計測・観測することはできません。そのため、地震の前に地表、空中、宇宙に間接的に現れる前兆現象を観測することが一番確かな地震予測方法と考えます。私たちJESEAはあらゆる可能性を排除せず地震予測方法の開発研究をしています。
  3.  日本列島は大きな4つのプレートが押し合い、へし合いしてひずみが溜まり、臨界点に達したときに地震が起きると考えられています。日本列島はさらに小さなミニプレートで構成され、その形状や容態は刻々と変化することが「ミニプレート理論」により明らかになってきました。互いに異なるミニプレートが押し合い、引っ張り合ってひずみが溜まり、臨界点に達することで、ミニプレートの境界付近で地震が起きることを発見しました。

以上を要約すると、地震の前に地表、空中、宇宙に現れる前兆現象を科学的な方法で常時観測し、いわば「地球の健康診断」を行うことこそが、現在可能な方法のなかではベストな地震予測方法と考えます。

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