Opinion

夏休み自由研究の工作:法隆寺はなぜ地震で倒れないのか

作成:村井俊治 東京大学名誉教授
株式会社地震科学探査機構取締役会長

地震に強い五重塔の工作

夏休みの自由研究で、地震に強い五重塔を作ってみよう

・材料費:330円(DAISOで手に入ります)
・目 的:法隆寺と東京スカイツリーに共通する制震構造を学ぶ


なぜ五重塔は地震に強いのでしょうか?

それは五重塔の中心にある心柱に秘密があります。
心柱(しんばしら)を取り付けることにより地震による揺れを軽減することができるのです。

そして、現在もその技術は受け継がれ東京スカイツリーにもその技術が応用されています。

 

工作の目的

約1300年前に建てられた、奈良にある世界最古の木造建築である法隆寺の五重の塔は数多くの地震にあってきましたが、倒れることはありませんでした。理由はなぜでしょうか。地震の揺れをうまく減らすことができる心柱(しんばしら)を最上層から下まで中央に吊るしたためでした。

そこで百円ショップで手に入る材料で、同じような心柱を入れた五重の塔に似た工作をしてみましょう。

 

材料の仕入れ

次の1~3の材料をDaisoの日用品コーナーから買ってきました。税込みで330円です。

  • 紙コップ:イタリア製プチケーキカップ ブラウン 10枚入・・・塔の役目です。
  • フェルトコースター(北欧型) 6枚・・・塔の層を支える基板です。
  • 伸縮式つっぱり棒:長さ 35~50cm: 太さ 10㎜・・・心柱に使います。
  • 缶詰の空き缶1個:直径約8㎝、高さ約10㎝の寸法・・・フタなしの使用済み缶です。

 


開封すると中身はこのようになっています。
こちらを工作に使っていきます。

工作の準備

  1. 2枚重ねの紙コップの底の中央に約1㎝の×印の切れ目をカッターで入れます。
    カッターでケガをしないよう注意してください。
    底から下の方に90度に折り曲げ、1㎝の四角い穴を作ります。
  2. つっぱり棒をひねりながら引っ張って、中の棒を外します。
    中にバネがあり強いですので大人に取り外してもらってください。中にある細い円柱の棒(太さ8mm:長さ30㎝) を使います。

 

五重の屋根と土台の重ね合わせ

  • 上からコースターの中央の穴に細い棒を通し、次に二重重ねのプチケーキカップに開けられた穴に棒を貫通させます。細い棒の上端にでっぱりがあるようにして、棒がコースターの上面で止まるようにします。
  • 同じようにしてコースターと二重重ねの紙コップを次々に棒に貫通させます。
    細い棒が貫通した五重塔らしきものが出来上がります。
    細い棒が一番下のコースターから約6㎝程度飛び出しています。
  • 空き缶の缶詰の中に出来上がった五重の塔を乗せて完成です。

地震の揺れに強いか実験してみましょう

  • 完成した五重の塔の一番下の空き缶を手に持って、
    前後左右にゆっくり動かしてください。
    五重の塔はゆらゆらと揺れますが倒れないですね。
  • 今度はもう少し大きく少し激しく空き缶を左右に揺らしてください。
    かなり揺れますが、倒れないですね。すごいことです。

 

心柱の棒を入れるとなぜ揺れに強いのか?

心柱の細い棒が、五重の塔が左右に揺れて傾くのをやわらげる働きをするからです。約1300年前に建てられた奈良にある法隆寺の五重塔も、東京にある634mの高さのスカイツリーも、心柱を入れてあるので地震が起きても倒れないのです。この制震技術(地震の揺れを和らげる技術)は日本人の昔の大工の匠が発明した日本独自の誇るべき技術です。

君たちも実験してその素晴らしい技術を学習しましょう。

 

法隆寺の五重の塔はなぜ約1300年も地震に耐えられたのか?

夏休みの課題に取り組む子どもたちにも分かるように解説します。

国宝である奈良県にある法隆寺の五重塔は西暦680年ごろ建てられたと言われています。この五重塔は約1300年も経過していて世界最古の木造建築で世界に誇る建物です。高さは32.56mもあります。およそ10階建ての建物です。江戸時代以前に建てられた現存する五重塔は22基ありますが、一つも地震で倒れていません。1854年に起きた伊賀上野地震(M7クラス:1995年の阪神淡路大震災とほぼ同じマグニチュードで震源は三重県伊賀市北部)では奈良のお寺も被害に遭いましたが、法隆寺の五重塔は大丈夫でした。奈良にある薬師寺の東塔は一部損壊しましたが倒れませんでした。落雷で火事になった事例はありますが、地震国の日本で地震によって倒れていないのはすごいですね。

一番高い五重塔は京都にある東寺の五重塔で54.84mもあります。法隆寺の五重塔は6番目に高い塔ですからすごいです。五重塔は主にヒノキで作られています。ヒノキは腐りにくく、約280年後に一番強度が強くなると言われる木材ですが、それにしても約1300年も持ちこたえているのは信じられないですね。

さてなぜ日本の木造の五重塔が地震で倒れないのはどんな工夫がなされているのでしょうか? 答えは、五重の塔の上から下まで心柱(しんばしら)と呼ばれる長くて太い柱が立てられているからです。普通心柱は礎石(そせき)と呼ばれる基礎になる石の上に立てられていますが、礎石は地表でも浅い地下においてもよいです。心柱は礎石の上に立てなくても、宙づり状態でも良いです。法隆寺の五重塔の礎石は地表に置かれていて、心柱はその上に立っています。ポイントは心柱が塔全体の重さを支えていないことです。塔の上端のみに固定されているだけで、中間は建物とフリーな状態になっています。ここが一番のミソになる大発明なのです。大昔の匠(たくみ)が発明した技です。

それでは塔の各層はどのように支えられているのでしょうか? 約1200トンもある塔の重みは最下層に設けられた4本の四天柱と12本の側柱で支えられています。最下層の上にある四層は複雑な木組みだけで積み上げられている構造です。最下層以外の各層の下部には床がありません。いわば「五重一階建て」と考えられますね。現在の建築の法律では、2階以上の木造建築は耐震設計上全体を支える「通し柱」(大黒柱とも言いますね)がないと法的に建築が認められていません。現在の法律では違法建築になります。でも地震に強いのですから、全く問題なしですよね。

では心柱はどんな働きで地震の揺れを減らして倒れるのを防いでいるのでしょうか? 地震が起きると塔全体がいわゆるスネークダンスのようにゆらゆらと揺れます。第一層が右に揺れると第二層は左というように各層がクネクネと動きます。これは上の四層が固く固定されていなくて、木組みで接合さ積れているだけだからです。強い地震が起きますとこの揺れが大きくなり塔は持ちこたえられなくなり壊れるか倒れるかしてしまいます。ここに心柱が中央にあるとスネークダンスの左右の揺れを軽くしようと制震(せいしん:揺れを減らすこと)の働きをします。

日本に現存する木造の五重塔にはすべて心柱が設けられています。大昔の匠が生み出した知恵が引き継がれています。

日本一高いスカイツリーは法隆寺の知恵が活かされている

東京スカイツリーは東京都墨田区押上に建てられた日本一高い電波塔です。2008年7月14日に着工され約3年半かけて2012年2月29日に完成しました。東京が昔「武蔵の国」と呼ばれていたのにちなんで634m(ムサシに由来)の高さです。2011年に当時世界一高いタワーの認定を受けギネスブックに記録されましたが、現在はアラブ首長国のドバイにあるブルジュ・ハリファ塔に抜かれて世界第二位の高さのタワーです。

さて東京スカイツリーは日本では当然大地震に襲われる可能性がありますから、どうやって地震で倒れないかを考えなければなりません。様々な検討の末に、法隆寺の五重塔で使われている心柱をスカイツリーにも採用して地震による倒壊を防ぐことにしたのです。

スカイツリーでは地上から第1展望台まで心柱が入っていますが、地上125mから地上375mまでの250mにわたる可動域(動くことができる区間)に鉄筋コンクリート製の円筒の心柱を入れました。心柱がタワーの鉄骨構造とぶつからないように、オイルダンパーと呼ばれるクッションが設けられました。これが本物の心柱で制震の働きをします。地上から第1展望台までの心柱の中に避難用階段が設けられています。心柱の根元から地上125mまでは固定されています。

ダンパーと言う英語はバネやゴムなどのような弾性体(だんせいたい:弾力のある物体)を使って衝撃や振動を弱める装置を言います。オイルのような粘性体(粘り気のある液体)を使ったダンパーもあります。

この心柱を入れたことで、地震によるタワーの揺れを制震することに成功しました。心柱は地震による大きな揺れを時間かけて静める働きをします。東日本大震災クラスの巨大地震が起きたらタワーは数メートルゆっくり動くと言われています。

大昔の匠の技が現代でも生きることは素晴らしいことですね。

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