【論文公開05】測位衛星データを用いた地体クラスタリング 〜日本列島を8つのブロックに分けると「地震の震源」との相関が見えてくる〜

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2019.12.26

はじめに

国土交通省国土地理院が日本全国に約1300ヶ所もの電子基準点を配置し構築した測位衛星(GNSS)連続観測システム(以後GEONETと略称)によって、日本列島の詳細な三次元変動が連続的に観測されている[1] 。従来の地質学的アプローチにより日本列島の地体構造が定義されているが[2] [3]、本研究ではGEONETにより観測された三次元地殻変動量データにおける空間的に連続性を示す類似度に着目し、クラスタリング解析を適用した定量的で動的かつ再現性のある客観的な地体構造の区分を試みた。

使用データ

国土地理院HPにて公開されている「電子基準点日々の座標値」をダウンロードし、2014年1月1日を基準とした2016年の1年分52週の週平均変動量データを作成した。この際に同HPのスカイプロットおよびノイズ情報から、ノイズの大きな箇所および設置場所の地盤が悪いためにデータが不安定な動きを示す電子基準点(約1300点のうち2割程度)はこの段階であらかじめ処理対象から除外した。さらに公開データは地球中心座標系のXYZ軸で変動成分が表されているが、各電子基準点における南北・東西・高さ方向の変動成分(dN、dE、dU)に座標変換した。52週の時系列データのうち今回は最終週(12/25~12/31)の1時期のデータについて後に続く解析処理に用いた。

変動量データの予備調査とクリーニング

解析に用いる三次元変動量データについて、その値の範囲や分散等の基本的な統計量を確認し、予備的な主成分分析を実施したところ、図1に示すデータ分布となり、第2主成分までの累積寄与率は96.7%であった。しかし図1の阿蘇や城南、長陽のように突出した特異点が存在することが確認できた。これらの特異点は、この後のクラスタリング処理における分割評価に支障をきたすため除外することとした。

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図1:主成分分析結果

クラスタリング処理

クラスタリング手法はオープンソースソフトウエアで様々利用できるが、本研究ではK-means法に比較してノイズにロバストであるK-medoids法を採用した。非階層的クラスタリング処理では分析者が分類クラスタ数を任意に与えることができるが、シルエット分析を併用しながら確認したところ、概ね6~12クラスタの範囲で妥当なクラスタ生成ができることを確認した。

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図2:クラスタリング処理(8クラスタ)

図2に8クラスタでのデータ分布とクラスタリング状況を示す。続いて、クラスタ番号でラベリングされた電子基準点を地理座標でプロットした後、定量的で再現性の高い地体構造図作成を意図して、第三者でも追跡検証ができるようにシンプルな最近隣内挿によって、点群データから面的なクラスタ分類を表現するポリゴンデータに変換した(図3)

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図3:地体クラスタリング結果(8クラスタ)
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図4:既存の地体構造区分図[2]

三次元変動量による地体区分の考察

図4は従来の地体構造区分[2]を示し、比べて図3を見ると、北海道が南北方向に3~4区分されており、東北地方では北上山地が明瞭に区分されている共通点がある。さらに中央構造線に沿って房総半島から九州まで、帯状に区分帯が配置する点においてよく類似しており、GEONETにより観測された地殻変動量のみの解析でも地質構造区分によく整合した分類結果が得られた。なお九州の中央部については、2016年4月に発生した熊本地震に伴う局所的な変動の影響で細かいクラスタが発生している。
三次元の地殻変動量を用いたクラスタリング処理により、類似度の高い変動量を持つ多数の地体(=地表面のブロック)に日本列島が区分できたが、一様ではない変動量で動くこれらの地体の境界について、地震の震源や地質構造線および活断層等との位置関係に関連性がある可能性も推測される。

まとめ

今回は2016年にGEONETにより観測された1時期の週平均変動量データを用いたクラスタリング処理により、図3の地体構造区分図が得られた。
この手法はGEONETにより連続観測されている三次元変動量データに基づいた定量的で動的かつ再現性のある客観的な結果が得られることがメリットである.GEONETが構築されて観測が始まって以来、多数の観測データが蓄積されている.既存観測データの詳細解析により、現在の観測データからリアルタイムに異常な地殻変動を検出するといった利用方法も考えられるため、今後は時系列データの解析も進めていきたい。

注)本研究は、日本リモートセンシング研究会の中に設置された「地体クラスタリングワーキンググループ(略称GEOTECWG)」の活動の一環として実施されたものである

参考文献

  • 日本リモートセンシング研究会 GEOTECWG

    鈴木英夫

    村井俊治