2019.12.26
熊本地震は2年前から沈降を続けていた以外大きな前兆現象が殆どなかった予測の難しい地震であった。震源が10kmと浅かった上に、震度5以上の大きな地震が短期間に前震、余震を含め18回もあった事から甚大な被害がでた。電子基準データにGISを用いて線的および面的な分析を行ったところ、九州地方は大きな地殻変動があった事が明らかになった。InSARの分析結果と照らし合わせても、その妥当性は十分に検証できた。グーグルアース上に地殻変動を載せ、道路などの施設と重ねてみると、どこで被害が大きかったかを明らかにすることができる。電子基準点データが被害調査にも役立つことが判明した。
国土地理院の電子基準点データは日平均値の地球中心座標XYZで与えられる。XYZの変動量は東西成分dE、北南成分dNおおび楕円高成分dU(またはdH)に変換できる。主として著者は地震予測のためにこれらの変動量にGISのテクニックを当てはめて、ある時間区分における隆起沈降図、東西変動図、北南変動図を作成し、さらに東西成分と北南成分から水平方向の変動量を矢印のベクトル表示を行った。これらの変動量はKMLファイルによりGoogle Earthの上に展開できる。グーグル上では道路地図およびその他の施設などと重ね合わせることができるため、地殻変動とこれらの施設とのかかわり合いを画像上で視覚的に確認できる。
熊本地震は前震(M6.5、震度7)が2016年4月14日に起き、さらに4月16日に本震(M7.3、震度7)が起きた。4月16日と4週間前との変動差から隆起沈降図(図1)、東西変動図(図2)、北南変動図(図3)を作成した。
熊本から北東方向に向いた大分県大分に抜ける線上で、熊本周辺での大沈降(城南で20cm、熊本で15cm)、阿蘇山近くでの大隆起(長陽で25cm、菊池で6㎝)、大分県の湯布院に向けて沈降があった。大沈降地帯と大隆起地帯の境目は高低差の歪みが大であるので被害は大きかったと推定できる。
東西変動図を見ると熊本市周辺は東変位に対し、その西側は西変位であるので東西成分だけで見ると押し合っている構図になる。当然その境目はストレスが大きく被害が大きいと推定される。
北南変動図を見ると、北東の線を境に北側は北変位をしているのに対し、南側は南変位をしており北南成分だけで見ると、互いに引っ張り合っている構図になる。その境目はストレスが大きく、被害は大きかったと推定される。
上記の東西成分と北南成分を組み合わせたものが水平ベクトル図である。最大変位を示したのは、熊本が78㎝北東方向に変位し、長陽が南西に103㎝変位した。最大変位を示した線上の北側は主として北方向に変位しているのに対し、南側は南変位をしている。矢印の向きはある程度の広さのブロックでほぼ同じ方向の変位をしており、九州が5つぐらいのブロックで地殻変動が起きたと考えられる。
上記の地殻変動図をGoogle Earthに載せて道路図や市町村境界などと重ねて表示すると、推定された地殻変動ブロックの境目は被害が大きかったことが判明した。詳細は本論文集ではうまく表演できないので、発表の時にGoogle Earthと共に紹介したい。
本論文の内容は、地震科学探査機構(JESEA)が発行するメルマガにおいて特集として会員に発信されている。橘田社長はじめJESEAの関係者に感謝したい。