Opinion

「福島県沖地震(2021)は東日本大震災の余震」の根拠と今後の危険性は?

2021年2月13日23時7分頃、福島県沖を震源としたマグニチュード7.3の地震が発生した。

宮城県と福島県で最大震度6強を観測したこの地震は、気象庁の会見で「2011年東北地方太平洋沖地震」の余震と考えられる、と発表された。

出典:気象庁報道発表:令和3年2月13日23時08分頃の福島県沖の地震について(2011年)-「平成23年東北地方太平洋沖地震」について(第89報)

 

しかしこの福島県沖地震が「東日本大震災」の余震であるとする根拠は何だろうか。

それは2021年福島沖地震が、気象庁の設定した「余震域」内で起きた地震だからだ。

「余震域」設定の基準や根拠は?

気象庁の設定した「余震域」は、おおよそ下図の範囲で設定されている。

 

「余震域」は東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の震源を中心に青森県沖から千葉県沖にかけての南北約600キロ、東西約350キロの範囲だ。この範囲内で発生した地震が「東日本大震災の余震」と見なされる。

では実際どれほどの地震が「東日本大震災の余震」とされてきたのか。

気象庁の設定した「余震域」内で震災発生から2021年2月までの約10年の間に発生した地震の数を下図に整理した。

 

気象庁の設定した「余震域」内で発生した地震をすべて東日本大震災の余震とすると、これだけの数の余震が発生していることになる。

しかし、地震発生から10年以上経っても余震が発生するとはどういうことなのだろうか。大きな地震が発生した後、本震よりも比較的規模の小さい地震が発生し、それが「余震」と呼ばれることは広く知られているが、「余震」と呼べる期間はいったいいつまでなのだろうか。

結論を言えば、「余震」期間に明確な規定はない。あるのは「余震域」だけで、その余震域も本震の震源を中心とした特定範囲だ。

実は過去に起きた大地震においても、本震と同じ震源域で起きた地震を長期間にわたって「余震」と推定してきた事例が多くある。本震発生から50年以上経過してから発生した地震でも、大きな地震の「余震」と考えられている地震もあるのだ。

阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)の余震が2013年に発生した?

阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)が発生したのは1995年だが、気象庁がまとめた資料によると、その地震の「余震域」とされた地域の南西端に近接する領域で2013年4月13日に最大震度6弱の地震が発生している。その地震も、「本震後に余震域で発生した地震はすべて余震」とすれば「兵庫県南部地震の余震」と推定されていると考えられる。

兵庫県南部地震の余震活動は、年月の経過とともに減少していますが、現在でも時々M4程度(最大震度3程度)の地震が発生しています。また、兵庫県南部地震の余震域の南西端に近接する領域で、2013年4月13日にM6.3の地震(最大震度6弱)が発生しました。

出典:「阪神・淡路大震災から20年」特設サイト

「余震」という言葉には「本震よりも小さな地震」というイメージがある、という人も多いだろう。しかし、実際には「本震後に余震域で発生した地震=余震」と定義されているため、「被害の大小」については明確にされていない。余震だからといって安心せず、より大きな被害が起こるかもしれないと考えて被害に備えておくことが何より重要だ。

余震は今後、大きな地震につながるのか?

余震と呼ばれている地震でも、その後より大きな地震を誘発する可能性は充分にある。いわゆる、「余震と思っていたが、大きな地震の前震だった」ということもあるのだ。

たとえば東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では、本震発生の2日前(3月9日)に、三陸沖でM7.3の地震が発生していた。その翌日にも三陸沖で地震が発生し、当初は3月9日の地震の余震だと考えられていた。しかし、3月11日に東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)が発生。余震だと思われていた3月10日の地震は、実際には3月11日に発生する地震の前震だったのである。

1891年に発生した濃尾地震については、100年以上経っても余震が続いていると考える学者もいる。濃尾地震の震源域で発生した大地震も数多くある。「大きな地震の震源域(余震域)で起きた地震はすべて余震」の考え方を採用すれば、三河地震(M6.8)や福井地震(M7.1)も余震ということになるが、これらの地震被害は非常に甚大だった。

前述した通り「余震」には「本震よりも規模や被害の小さい地震」といったイメージがあるが、実際には被害の大きな地震も発生するうえに、より大きな地震を誘発する可能性もある。「余震だから大丈夫」と安心せず、地震への備えをしておくことが重要である。

東日本大震災後、東北地方は隆起を続けている

なぜ、地震への警戒を強めなければならないのか。それは東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の発生後、東北地方が隆起を続けているからだ。

下記の図は、JESEAが開発した「地殻変動MAP」(期間限定で無料公開中)である。これを見ると、東日本大震災から1ヶ月半経った時点の地殻の状態が把握できる。2年前(2009年)の地殻と比較して沈降していれば青や紫、隆起していれば橙や黄緑色で表現されるが、震災後は震源域を中心に東北地方が大きく沈降し、沈降の外周では隆起が大きく進行していることがわかる。つまり震災で一気に沈降した地殻がもとの位置に戻ろうとし、東北地方の外周から急速に隆起しているのだ。

 

東北地方の隆起傾向について、宮城県における10年間の地殻変動(隆起・沈降)の様子をグラフ化したものが下記だ。これを見ると、震災前後に一気に沈降した地殻が、10年の歳月をかけて隆起し、震災前の状態に戻ろうとしているのではないかと推定できる。

「余震」と聞いて安心せず、大きな震災への備えを

 

2021年2月13日に発生した福島県沖地震は、M7.3最大震度6強を記録した非常に大きな地震だった。だが「東日本大震災の余震だった」と聞くと、「もう今後大きな地震は起こらない」と油断してしまう場合もあるかもしれない。しかし過去の事例を見てわかるように、「余震だと思われていたものが、より大きな地震の前震だった」ケースも存在する。余震だと思って安心することなく、より大きな地震が発生する可能性に備えて、いまこそ地震への対策を強化するべきだ。

実際、東日本大震災以降、日本列島は大きく動いている。特に前述のように東北地方はその変動量が著しく大きい。垂直方向だけではなく水平方向の変動も東北地方はとびぬけて大きい。この変動が別のひずみを生みだしていると考えられ、新たな大地震の要因となることを警戒しなければならない。

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