Opinion

首都直下地震の予測と被害予想~首都圏地震の過去・現在・未来

執筆:村井俊治 東京大学名誉教授
株式会社地震科学探査機構取締役会長

中央防災会議の予想

2013年12月19日、政府の中央防災会議の首都直下地震対策検討ワーキンググループはM7.3の直下地震が首都を襲う想定のもとに被害予想を発表しました。首都およびその周辺地域は、南方のフィリピン海プレート、東方の北米プレートが複雑なプレート構造を成す領域に位置しているため、この地域で発生する地震の様相は極めて多様です。首都周辺で起きる地震の発生様式は、概ね次の6つのタイプに分類されます。

  1. 地殻内(北米プレート又はフィリピン海プレート)の浅い地震
  2.  フィリピン海プレートと北米プレートの境界の地震
  3.  フィリピン海プレート内の地震
  4.  フィリピン海プレートと太平洋プレートの境界の地震
  5.  太平洋プレート内の地震
  6. フィリピン海プレート及び北米プレートと太平洋プレートの境界の地震

 

首都圏に起きた巨大地震

首都圏に大きな被害をもたらした大地震は、1923年大正関東地震(関東大震災)、1703年元禄関東地震、1677年延宝房総沖地震が知られています。大正関東地震、元禄関東地震は②のタイプの地震(フィリピン海プレートと北米プレートの境界の地震)で、200年~400年間隔で発生しています。
これらの地震の発生前にはM7クラスの地震が複数回発生していますが、地震のタイプは、③のタイプ(フィリピン海プレート内の地震)が多いと考えられています。しかし将来どのタイプの地震が起きるかは不明です。

延宝房総沖地震タイプの地震は、⑥のタイプの地震(フィリピン海プレート及び北米プレートと太平洋プレートの境界の地震)で、津波の規模に比べ地震の揺れが小さい「津波地震」の可能性が高いです。この地震の繰り返しは確認されておらず、発生間隔は不明です。

首都圏のどこで地震が起きるか?

地震が起きる場所の想定は、「経済・産業」、「政治・行政」など首都機能が直接的なダメージを受ける都区部(都心南部、都心東部、都心西部)の直下3地震と首都地域の中核都市(さいたま市、千葉市、市原市、立川市、横浜市、川崎市、東京湾、羽田空港、成田空港)の直下9地震に絞られました。
想定される地震の規模は、フィリピン海プレート内の地震、あるいは地表断層が不明瞭な地殻内の地震の2つのタイプの地震が想定されています。フィリピン海プレート内の地震は、安政江戸地震を参考に規模はモーメントマグニチュード(Mw)7.3としています。地表断層が不明瞭な地殻内の地震については、鳥取県西部地震と同じ規模のM7.3としています。鳥取西部には表層に断層が現れていません。首都圏でも表層は関東ローム層で覆われ断層が見えにくい状態ですので鳥取西部地震がモデルになりました。

首都直下地震のモデル

モデルになった3つの首都直下地震の規模を紹介します。

  1. 1923年大正関東地震
    ・震源断層域:相模トラフ沿いの相模湾から房総半島西側の領域
    ・深さは30~35㎞
    ・地震の規模:Mw8.2
    ・震度分布:首都地域の広域
    ・津波高:東京湾内は2m程度、 東京湾を除く神奈川県、千葉県では6~8m程度
  2. 1703年元禄関東地震
    ・震源断層域:相模トラフ沿いの相模湾から房総半島南西沖の領域
    ・深さは30~35㎞
    ・地震の規模:Mw8.5
    ・震度分布:首都地域の広域
    ・津波高:東京湾内は3m程度、東京湾を除く神奈川県、千葉県では10m程度
  3. 1677年延宝房総沖地震(Mw8.5)
    ・震源断層域:日本海溝、伊豆小笠原海溝沿いの福島県沖から伊豆諸島東方沖の領域
    ・深さ:約20~30㎞
    ・震度分布:大きな揺れの資料はなく、津波地震の可能性が高い
    ・津波高:東京湾内は1m程度、千葉県や茨城県の太平洋沿岸で4~6m程度

 

首都直下地震の被害予想

  1. 建物被害と人的被害
    ・ 震度6強以上の強い揺れの地域では、木造住宅密集市街地等において、老朽化が進み耐震性の低い木造家屋等が多数倒壊するほか、急傾斜地の崩壊等による家屋等の損壊で、家屋の下敷きによる死傷等、多数の人的被害が発生すると想定されました。
    ・揺れによる全壊家屋:約175,000棟
    ・建物倒壊による死者:最大約 11,000人
    ・建物被害に伴う要救援者:約72,000人
  2. 市街地火災の多発と延焼
    ・ 地震発生直後から、火災が連続的、同時に多発し、地震に伴う大規模な断水による消火栓の機能停止、深刻な交通渋滞による消防車両のアクセス困難、同時多発火災による消防力の分散等により、環状六号線から八号線の間をはじめとして、木造住宅密集市街地が広域的に連担している地区を中心に、大規模な延焼火災に至ることが想定されます。
    ・地震火災による焼失: 最大 約412,000棟、倒壊等と合わせ最大 約610,000棟
    ・火災による死者: 最大 約16,000人、 建物倒壊等と合わせ最大 約23,000人

首都直下地震で最悪の想定ケースは冬の夕方で風速8mの風の時です。死者を出す最大の要因は火災です。火に囲まれて逃げ場を失う「逃げ惑い」による死者が心配されています。関東大震災の二の舞です。火災が発生しても消防車が到着できないケースもありますし、水が使えないケースもありえます。足立区や杉並区などには多くの木造密集区域があります。30分後には広域に延焼すると言われます。火災を防止するために「感震ブレーカー」の設置が有効とされています。地震の揺れを感知すると電化製品に流れる電気を自動的に遮断する装置です。地震で倒れた電気ストーブなどには有効だそうです。火災が起きたら消火に努めますが、個人の場合には天井に火がまわったら逃げるタイミングだということです。消防団でも隣に延焼したら逃げたほうが良いそうです。都内には28箇所の木造密集区域がありますが、不燃化を急ぐ必要があります。

被害額の想定

都心南部直下地震が冬の夕方で風速が8m/秒ある場合、被害額は次のように想定されました。

  1. 資産等の被害
    ・民間部門   42.4兆円
    ・準公共部門(電気・ガス・通信、鉄道)   0.2兆円
    ・公共部門                         4.7兆円
    小計   47.4兆円
  2. 経済活動への影響
    ・生産・サービス低下に起因するもの        47.9兆円
    総合計(資産等の被害+経済活動への影響) 95.3兆円

M8クラスで相模湾から房総半島で起きる関東大震災と同じ巨大地震の起きる可能性は少ないと予想されましたが、もし起きれば最大10mの津波が千葉県および神奈川県の沿岸を襲い最大約7万人の犠牲者が出ると想定されました。この場合には160兆円の経済被害が予想されます。

M8級地震の発生確率

政府の地震調査委員会(委員長=本蔵義守東工大学名誉教授)は2014年4月に首都圏に甚大な被害をもたらす危険がある地震の長期予測結果を発表しました。相模湾から房総半島に伸びる相模湾トラフ沿いにM8級の地震が30年以内に起きる可能性は最大で5%としました。前回発表の時は3%でしたから2%だけ上昇しました。首都直下地震の発生確率は10年以内の30%、30年以内に70%、50年以内に80%としています。相模湾トラフの境界で起きた過去の大地震は1703年の元禄関東地震(M8.2)と1923年の関東大震災(M7.9)があります。

一体5%の確率をどう解釈したら良いのでしょうか?地震調査委員会では事故や犯罪にあう確率を参考にあげているそうです。30年以内に空き巣にあう確率は3.4%、火事にあう確率は1.9%だそうです。だから家では鍵をかけ、火の用心をするのと同じように地震への備えをしておきなさいということのようです。ところで相模湾トラフ境界で起きた過去の地震では千葉県房総半島先端の海岸では陸地がその都度約5mも隆起して段丘が生じたといいます。JESEAの隆起・沈降の監視が地震予測に役立てば良いと考えています。

グーテンベルグ・リヒター則

地震の長期予想に使われている法則にグーテンベルグ・リヒター則というものがあります。過去に起きた地震のマグニチュード(M)を横軸にとり、それぞれのMの大きさの地震の回数を縦軸にとります。縦軸は対数目盛にします。左上から右下に向かうほぼ直線のグラフが得られます。簡単に言いますと「小さな地震ほど多くの回数が起き。大きな地震ほど少ない回数になる」と言う意味になります。「大きな地震ほど滅多に起きない」と言っています。一般に小さな規模の地震の回数が増え続けます。上記のグラフを新たに描きますと、前回のグラフよりやや上側にほぼ平行の「右肩下がりの直線」が得られます。M8以上の巨大地震は実際には滅多に起きませんので新しいグラフでは空欄になるはずですが、直線をM8まで延長してグラフを描きます。当然少し上に上がった「右肩下がり」の直線が得られます。その上に上がった確率を計算すれば将来のM8クラスの確率を計算できます。巨大地震の発生確率の計算は「大きな地震は滅多に起きない」と言う以上の科学的根拠はないと言ってよいでしょう。

首都圏直下地震のタイプには元禄地震タイプと関東大震災タイプの二つに分けられ、別々の統計確率で計算されてきましたが、今回二つを一緒に確率計算した結果、M8級地震が今後30年以内に5%になったと言われています。別々の計算では3%だったのだそうです。最近は三浦半島の発掘調査で大昔にもM8級地震があったことが分かり確率計算が変わることもあるようです。

首都直下地震の火災対策

首都直下地震が心配されていますが、大きな問題になっているのは木造家屋密集地帯の火災による被害です。関東大震災では火災による被害が甚大でした。兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)でも火災による被害は大変大きかったです。東京都は古い木造家屋が密集する地域(木密地域と呼ばれる)の不燃化を計画しました。建物を不燃化構造に建て替えるだけでなく、都市再開発をして広い道路を設けて延焼を防ぐ町づくりが必要です。そのためには一戸建て住宅から高層ビルに建て替え、新たに広い道路の面積を確保しなければなりません。東京の住宅地は30坪クラスの狭い土地に分割されていますから、小さな町でも数多くの地権者が存在します。全員、少なくとも80%以上の地権者が合意しませんと都市再開発事業は進みません。一戸建ての家からマンションに移動しなくては不燃化の町はできません。店を経営する商売も同じです。様々な権利を主張する地権者がいますので合意形成は並大抵ではないです。お金の問題もあります。しかし家族および子孫を守るためには皆でできるだけ早く合意を形成することが肝要です。

首都直下地震に備えた八方向作戦

国土交通省は首都直下地震で首都圏が壊滅する事態を想定して八つの方向から東京都心への輸送路を確保する「八方向作戦」を立てました。首都直下地震は最悪の場合M7.3の地震が起き、死者約2万3000人、建物の全壊・全焼約61万棟、帰宅困難者約800万人の被害が想定されています。人命救助の限界である「発生後72時間」以内の救助や食料・水や医薬品の輸送などには輸送路の確保は必須です。そこで東名高速、中央道、関越道、東北道、常磐道、京葉道、東京湾アクアライン、羽田空港線の八方向からの道路の上り1車線を最優先して確保するルートをあらかじめ決めておくことにしたのです。東日本大震災の時は東北自動車道および国道4号線から太平洋岸に向かう15本のルートを地震発生後4日後に完成させました。「くしの歯作戦」と言われました。3日以内に人命救助を支援し、7日以内に緊急物資輸送を支援することが基本になります。一番問題は津波に流された乗用車を法的にがれきとして撤去し、移動させ、保管する場所の確保だと言われます。

安政江戸地震の被害記録

安政江戸地震は俗に安政の大地震と呼ばれ江戸直下地震でした。震度は6でマグニチュードは6.9から7.4の範囲と推定されています。起きた日時は安政2年10月2日(1885年11月11日)の午後10時でした。幕府の調査では狭い域内で死者は約4700人、倒壊家屋約14,000戸ですが、広域で考えれば1万人の死者と推計されています。地震発生と同時に出火がありましたがそれほど延焼しなかったと言われます。地震の翌日から余震が起き、10月7日の余震はかなり大きかったと記録されています。旗本・御家人の家の8割が全壊または半壊したといいます。10月8日には雨になり耐え難くなって、野宿していた人々も壊れた家に戻ったといいます。1853年ペルーの黒船が来てから間もない年だったので江戸幕府は内憂外患で国家の危機だったと伝えられます。武蔵野台地の山の手の青山、麻布、四谷、本郷、駒込の高台(主に武家屋敷)は被害が少ない一方で、埋め立て間近だった深川、浅草、本所、小石川、小川町などの低地(主に町民の町)は被害が甚大だったことが記録されています。

丸の内二重橋ビル 帰宅困難者の避難場所

東京駅の近くの東京丸の内のオフィス街の再開発事業で防災拠点として高さ150mの高層オフィスビル(地上30階、地下4階)が建設されました。延べ面積は約17万4000平方メートルです。事業主は三菱地所、東京商工会議所、東京会館です。出力最大5000キロワットの非常用発電機を備え、停電の時は近隣のビルにも電力を提供できます。防災機能を高めた防災拠点として位置づけられています。大ホールも備え国際会議の開催もできるそうです。国際的なビジネス拠点としての魅力もあるようです。首都圏が地震に襲われた時には帰宅困難者の受け入れができることが期待されています。三菱地所によりますと、この場所は都内で最も地震と火災の危険度が低いエリアのひとつだそうです。非常用発電機だけでなく、水害対策および給水対応が可能と言われています。総合防災訓練も実施するといいますから災害に強い街づくりのモデルと言えます。首都直下地震が起きた時に帰宅困難者の避難場所になるとなお良いですね。これから建設される高層ビルは、このような防災拠点を目指して計画されれば災害に強いまちづくりに貢献できるでしょう。

高層ビルの地震時の揺れ

耐震設計が発達し地震国の日本でも高層ビルが建築できるようになりました。昭和43年(1968)に初めて霞が関ビル(36階、地上147m)が建築されてから50年以上が経ちます。高層ビルは長周期地震動に対しゆっくりと揺れることで地震そのものの揺れを吸収する構造になっています。一般に高層階ほど揺れます。一番揺れる周期(固有周期と呼びます)は一般に高いビルほど長い周期になります。地面の揺れと建物の揺れの周期が一致すると建物は大きく揺れます。実験では15階建てで1.5秒、30階建てで3秒、50階建てで5秒の固有周期でした。東日本大震災では首都圏の高層ビルは長周期地震動により大きくゆっくり揺れました。10分以上もかかって揺れが収まったと言います。中にいた人の中には船酔いを起こした人がいたそうです。東京の「新宿センタービル」(54階建て、高さ223m)は約13分間にわたって揺れ、最上階では1mを超える横揺れがありました。震源から約770キロ離れた大阪府の「咲洲庁舎」(55階建て、高さ256m)でも約10分間揺れ、最上階付近の揺れ幅は最大約2.7mに達したといいます。

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