Opinion

地震防災危機管理~耐震化~事業継続計画(BCP)

執筆:村井俊治、JESEA取締役会長、東京大学名誉教授

【地震防災危機管理】
~情報遮断の危惧~交通遮断の危機~ライフラインの被害

現在の社会では危機に際して起きる問題で一番深刻なのは、「情報が入らない」ことです。まず電話が込み合って繋がらないことが問題です。本社と出先との連絡、家族間の連絡などができません。いざというときのために家族で避難場所や落ち合う場所などをあらかじめ決めておくと良いでしょう。時間帯によっては担当役所に宿直がいないことも大きな問題になります。命令系統が混乱します。命令を出すべき上司がいない場合を想定して第2、第3の命令系統を決めておくことが大切です。

第二番目の問題は「交通が遮断される」ことです。帰宅困難者が溢れます。この人たちの避難場所や非常食の備蓄は大問題です。車による交通が遮断されると現代社会ではほぼマヒ状態になります。できるだけ早い時点で帰宅を諦めて宿泊できる場所を確保することも重要な判断です。東日本大震災の時に私の友人はタクシーを待つのに8時間も並んだと言います。タクシーに乗れても道路は渋滞でさらに家に到着するのに数時間かかったと言います。気候次第ですが、無理に帰宅しようとしない方が体のためには良いと思います。車は避難場所になりますし、車のラジオは役に立ちます。冬なら暖を取ることもできます。ただし長いあいだ車にいるときはエコノミー症候群に注意が必要です。

第三番目の問題は「ライフラインが途切れる」ことです。電気、水道、都市ガス、トイレが使えなくなります。一番早く復旧するのは電気で、次は水道です。都市ガス、トイレは長期戦になることが多いです。特にトイレは深刻な問題です。コンポストトイレを使い易いように工夫・開発して欲しいものです。細かい話ですが東日本大震災では歯ブラシが欲しいという声が多かったです。地震に強いのはプロパンガス(LPガス:液化石油ガス)と言われています。LPガスを使った発電機が開発されています。ガスボンベを使った発電機も開発されています。前者で30万円台、後者で10万円台の値段のようです。このような発電機は電子レンジも動かせると言いますので食事には役立つでしょう。

第四番目の問題は「職員が集まらない」ことです。役所や会社の業務が職員不足で再開または正常化ができなくなります。神戸の震災の時は4分の3の職員が集まらなかったそうです。遠距離通勤の人は出勤が難しくなります。災害援助物資が送られてきたとき慣れていない職員がどのように援助物資を管理して配布するかの知識と経験がないため、倉庫に眠ったままのケースが多々報告されています。同じようにボランテイアに人たちが支援に集まった時も役所の職員が適切に配備できなくて無駄を生じた事態も多々報告されています。

第五番目の問題は「対処が遅れる」ことです。救急・救助の対処だけでなく、様々な手続きが取れなくなります。法的な援助を得るためには罹災証明書が必要ですが、一般の人はなかなか作成できません。いろいろな異なる機関の連携活動がスムーズに運ばないことも問題です。

第六番目の問題は「物資・機材が不足する」ことです。家庭ごと、組織ごとに最低3日分の備蓄は必要です。災害はどのような季節でも起こり得ます。冬の寒い時期や夏の暑い時期も想定する必要があります。雨だって降ります。食料、飲料水、生活用品などをそろえるだけでなく、いざというときにすぐに取り出せるように適切な場所に管理しておくことも必要です。町の防災倉庫のカギを持っている人が不在で折角用意した備品を利用できなかった事例もあります。援助物資を避難者にうまく迅速に分配する体制も必要です。早いもの勝ちや奪い合いが起きない仕組みをつくる必要があります。公平を期するあまりせっかく援助物資があるのに分配しなかったという例を聞きます。大切なことは必要とする人たちにいかに早く対処するかで しょう。

第七番目は「担当機関は非難の集中砲火を浴びる」ことです。マスコミや上部機関は責任を追求して担当者に集中砲火を浴びせます。これが却って復旧を遅らせます。赤十字社を通じて寄付された寄付金が適切にタイミングよく被災地に寄付されていない事例が報告され、世間の批判を受けました。

【地震の前の防災知識】
~住宅の立地条件のチェック~耐震化~情報伝達

防災の第一番は「自分が住んでいる場所の立地条件」を良く知っておくことです。住んでいる場所が地震に弱い地盤か否かを知るべきです。盛土した地盤は揺れに弱いです。沖積平野や旧河川または昔湖沼だったところ、埋立地などは液状化に弱いです。山裾でしたら土砂崩れや土石流などに注意が必要です。ダムの下流も要注意です。堤防があっても信用してはいけません。地震で決壊する危険があります。ハザードマップも100%信じてはいけないです。ハザードマップに安全とされた場所や施設が被災した事例は東日本大震災の時相当数ありました。実際に指定された避難所に逃げ込んで命を落とした例も沢山ありました。基本的には自分の命を守るのは自分です。今大地震が起きたらどこに逃げるというシミュレーションをしておくことが大切です。

第二番は「家やビルの耐震化」です。耐震化率は0.7を確保したいです。我が家は築50年近い木造家屋ですが耐震診断をしてもらい、倒壊を防げる最低ラインの耐震化を実施しました。日本の木造家屋の南側は太陽の光を取り入れたいために一番開放部が広くなっており、南側に倒壊しやすいです。倒壊を防ぐために南側の窓にXの形の補強材を取り付けることは美観上できないです。我が家では金具を屋根裏に多用して何とか耐震化を実現しました。

第三番は「家具の転倒防止」です。家やビルが倒れなくても中にある家具や道具が落ちてきて怪我をする場合もあります。巨大地震ではテレビでも1~2mは飛びます。机の下に潜れと言われますが巨大地震の場合自由に動くことさえできないと言われています。とても机の下には潜れないと思った方が良いです。家具の転倒防止も巨大地震の時には役に立たないこともあることを知っておくと良いでしょう。1995年の阪神淡路大震災の時に次男が神戸大学の学生で被災しましたが、アパートのベッドの左側にあったテレビがベッドの右側に飛んでいたと信じられないような経験談を話してくれました。地震の揺れのショックでテレビが2m近くも飛んだのです。

第四番は「備蓄」です。水、食料、簡易トイレ、ラジオなど様々のものが必要ですが、一番問題なのはどこに置いておくかです。場合によっては地震のあとで取り出せない場合もありえます。同じく次男の経験談ですが、震災後30分でコンビニの食料品は売り切れたと言います。阪神淡路大震災の16年後に起きた東日本大震災を都内の大学校舎で経験した時は、阪神淡路大震災の経験が活きたといいます。すぐにコンビニに行き食料と飲料水と生活備品を購入し、帰宅を諦めその晩仮眠をする場所を直ちに確保したと言います。帰宅は困難と即断したと言います。

第五番は「情報伝達」です。緊急地震速報や災害伝言ダイヤルなどをチェックしましょう。東日本大震災の時に比べて情報伝達のツールは物凄く発達しましたので、ケータイの電源さえ確保できていれば情報伝達は大きく改善されたと言えます。ケータイは通じなくても「Twitter」や「LINE」 等は繋がる可能性が高いです。ケータイの充電は深刻だと思います。一番の問題は高齢者です。スマホなどを使った情報伝達に弱く孤立する危険があります。特に一人暮らしの老人は要注意です。

【サプライチェーン対策】
~事業継続計画(BCP)~緊急時に役立つマニュアル

製造業の部品調達は世界中の様々な地域から調達されています。このことをサプライチェーンといいます。東日本大震災では部品調達ができなくなったためにトヨタ自動車、ホンダ自動車は工場生産を停止せざるを得なくなりました。象徴的だったのは半導体のチップを生産していたルネサスの那珂工場で生産していたマイコンがストップして世界中の製造業に影響を及ぼしました。このような教訓から製造業は事業継続計画(BCP)を立てています。

トヨタ自動車は10次の下請けまで網羅した部品供給網を構築しました。NECは山形県のパソコン生産拠点が被災したことから群馬県の修理拠点でも生産できる体制を作りました。セブンイレブンでは配送車両の燃料備蓄基地を増やし5400店に数日間商品を配達できるようにしました。イオンは2020年までにスーパー向けの全基幹物流センターに自家発電装置を設置する計画を立てました。ほかの多数の企業も事業継続あるいは早期復活を目指して自衛策を立てています。

情報時代ではいかにデータベースを保存するかも大切になっています。日本国内だけしか利用できないクラウドサービスは巨大地震の時に危ないと言う人がいます。Googleなどの国際的シェアをもっている情報企業はデータベースを守るのには安全だと言う人もいます。勿論別のセキュリテイの問題はありますが、災害を想定した場合の一つの選択肢であると思います。

一番大切なことは、迅速に被災状況を把握し、担当部署と情報共有し、直ちに対策を立てることです。

災害が発生した直後の短時間に全ての業務を復活させることは不可能ですから、重要な業務を挙げて優先的に復活させる必要があります。重要な業務の範囲は自社内にとどまらず、自社の業務のサプライチェーンまで対象を広げます。BCPは計画倒れではいけませんので、訓練を通じてBCPが役立つか否かを検証することが大切です。

重大な自然災害に遭遇した場合、自社内に緊急対策本部を設ける必要があります。本部を中心に、従業員の安否や自社の損害状況を確認し、通信・交通手段など社会的インフラの損傷度合などを把握しながら、自社の存続にかかわる重要な業務をできるだけ早期に復活させる必要があります。重大な自然災害に遭遇しても、パニックに陥らず適切な対応を行うことで被害を最小限に抑えることができます。事前にBCPに基づいてシンプルで分かりやすいマニュアルを作成した上で全社的な訓練を行っておく必要があります。訓練を通じてBCPを改善していくことも大切となります。

重要業務の決定と目標復旧時間・目標復旧レベルの検討が大切です。次に、影響度評価の結果を踏まえ、優先的に継続・復旧すべき重要事業を絞り込みます。重要な事業の復旧に必要な各業務について、どれくらいの時間で復旧させるかの「目標復旧時間」と、どの水準まで復旧させるかの「目標復旧レベル」を決定します。重要業務間に優先順位を付けることも必要です。

具体的には、それぞれの重要業務について、停止(相当程度の低下)が許されると考える時間の許容限界を定めます。実際の災害時は計画通りに実現できないことが多々ありますから、あくまで「案」としてBCPを策定しておきます。実際の場では臨機応変な対応が求められます。素早い経営判断で最終決定をすることが重要です。

不測の事態に直面した時、企業・組織の活動が利害関係者から見えない、何をしているのか全くわからないといった、いわゆるブラックアウトを起こすと、取引先が代替調達に切り替えるなど、自社の事業継続に不利な状況が進む場合があります。結果として、復旧可能性の情報を発信できずに時間を浪費すると、社会的責任を果たせないことにつながります。このような不利益な状況を防ぐため、取引先、顧客、従業員、株主、地域住民、政府・自治体などへの情報発信や問い合わせに対する応答などを行うための自社内体制の整備、連絡先情報の保持、情報 発信の手段確保なども必要です。

企業・組織は、地域を構成する一員として、地域への積極的な貢献が望まれます。地元の地方公共団体との協定をはじめ、平常時から地域の様々な主体との密な連携が推奨されます。社会貢献としても、従業員個人の自主的なボランティア活動を促進させることも大切です。災害時に地元の住民の避難場所や救援物資を提供することも大切なことです。地域社会から有難がられる企業精神が一番のBCPだとも言えます。愛社精神と愛地域社会との連携は企業が存続する要と言えるでしょう。

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