Opinion

首都直下地震の被害想定 なぜ火災が多い? 交通の混乱はどのくらい?

今年は関東大震災の発生から100年を迎える節目の年です。
これから先、いつ起こってもおかしくはないといわれる大地震に対し
いまどんな被害が想定されていて、
どのような対策が行われているのかを知ることが
災害に備える、防災の第一歩であると考えます。

今回も前回に引き続き、
首都圏で大きな地震が起きた際に想定されている被害と、
行われている対策について説明します。

なぜ「火災」で多くの被害が出るのか

前回「首都直下地震の被害想定 火災や帰宅困難について」で説明した通り
東京都が想定した「首都直下地震」の中でも最大の被害が想定されているもの
つまり震源が「都心南部直下」の想定では
「火災」により多くの被害が出るとされています。

この被害想定は、1923年に発生した関東大震災において
最大の被害が「火災」により生じたことから
火災による被害が最も甚大になる条件である
「風のある冬の夕方ごろ」が想定されています。

この条件下で首都直下地震(震源が都心南部直下)が発生した場合
約41万棟が火災によって焼失し、火災による死者は約16,000人であるとしています。
想定されている出火件数は最大で約2,000件です。
つまり、被害想定において焼失するとされている約41万棟は
ほとんどが延焼によって被害を受けると想定されているのです。

想定出火件数:最大約2,000件(うち東京都約1,200件)
火災による焼失家屋:約410,000棟
消防ポンプ車台数:約700台(東京都)

また、令和3年中に発生した東京都の火災件数が1年間で約4,000件であるのに対し
被災直後に出火すると想定されている件数は最大約2,000件。
「平時であれば半年分」の火災が1日で発生するようなものですから、
首都直下地震が発生した場合の出火件数は非常に多いといえます。

この火災に対処する消防のポンプ車は、都内に約700台。
「平時であれば半年分」の火災を、
約700台のポンプ車で消火することになります。

1件の消火活動には複数のポンプ車が出動するため、
出火した約2,000件を迅速に消化することは難しいと考えられます。
被害想定においても、出火件数は最大約2,000件であるのに対し
火災による焼失家屋は約41万棟。

火災による被害のほとんどが「延焼」により発生する想定となっているのは
先述した通りですが、
延焼が拡大する主な理由は下記の3点です。

  1. 木造住宅密集地「木密地域」が都内に複数存在すること
  2. 地震発生後に発生する交通渋滞により消火活動が遅れること
  3. 出火件数に対しポンプ車の数が少ないこと

地震発生直後は、避難や自宅への帰宅を試みる人々で道路が混雑し
交通渋滞が発生することによって、火災現場への到着が遅れることも
被害を拡大させる原因のひとつと考えられています。

群衆雪崩の発生

地震発生直後に発生する交通渋滞の一因は、
避難や自宅への帰宅を試みる人々で道路が混雑することだと述べました。

この被災直後の「人々の移動」に関連して
発生しやすい現象のひとつに「群衆雪崩」があります。

「群衆雪崩」とは、都内など人の多い場所で集団ができた場合に
密集した人々のなかで1人が倒れた際
周囲が雪崩のように転倒していく現象のことです。

こうした状況は「群衆事故」とも呼ばれ、
直近では2022年10月29日に
韓国ソウルの繁華街・梨泰院で群衆雪崩が発生し約150名が死亡しました。

2010年にはカンボジアの「水祭り」において約350名、
2015年にはサウジアラビア「メナー群衆事故」では約2,000名が死亡しています。

1平方メートル内に10人以上の人々が集まるような状況で起こりやすいとされ、
主に圧死によって多数の被害が出ることがわかっています。
「1平方メートル」はおおよそ電話ボックスと同じくらいの面積です。

首都直下地震が発生した場合、帰宅や避難を試みる人々によって
都内で群衆雪崩が発生する可能性があります。

災害直後は道路等の路面状況も悪く
避難誘導等の適切な対応も難しくなること、
また多くの人が帰宅や避難を急ぎ焦っている状況であることから
無理な移動による転倒が発生しやすく、
群衆雪崩による事故が起こる可能性が高くなります。

東京都の被害想定から打ち出された対策においても
基本原則は「むやみに移動しない」とされているとおり、
災害直後には無理に移動することは避け安全な場所にとどまることが重要とされています。

災害時に無理な移動が発生する原因としては
家族の安否がわからない、自宅に十分な備えがない等が考えられます。
そうした事態をふせぐためにも、災害の発生する前に日々の備えを見直し
自宅の備蓄を万全にすることや安否確認方法を確立しておくことが重要です。

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