今回は、地震前に起こる様々な前兆現象のひとつ「疑似的な気温の異常変動」についてお話します。
疑似的な気温の異常変動とは?
「疑似的な」というのは、実際にその場の気温が変動するわけではなく「電気抵抗を利用して気温を測る温度計の数値が、異常に変動した」という現象のことを指しています。
これが地震前兆のひとつである、とJESEAは考えています。
きっかけは、2018年にJESEAに送られてきた、とある資料でした。それは10年間におよぶ気温変動と地震発生の因果関係を示しており、大阪府高槻市にお住いの中村文一氏から、お送りいただいたものでした。
それは「10分以内に2℃以上の気温変化があれば、地震との相関が高い」という内容のものでした。
気温計にはいろいろな種類があります。一般によく知られているのはガラス製温度計ですが、今回取り上げるのは電気式温度計です。
電気式温度計は、気象庁も気象観測に使用している温度計です。この温度計は、白金抵抗体を利用しています。
金属の電気抵抗値は温度に応じて変化するので、その特性を利用し、抵抗体に微弱な電流を流し、電気抵抗の値を気温に換算することで温度を測定しているのです。
ところが、地震の前に発生する異常な電磁波がこの電流に影響を及ぼしており、温度計の値を変動させているのではないかという仮説に至りました。
地震前兆の可能性がある気温の異常変動とは?
中村氏とJESEAは共同研究を行い、全国に約1,000カ所ある気象庁の測候所の気温変化を検証しました。すると、10分間に2℃~3℃以上の異常変動が現れた時は、その数日後から約2週間以内の範囲で地震が起きていることがわかりました。
問題点としては、温度計に影響を及ぼす電磁波の擾乱について、地震以外にも原因が多数存在していることが考えられます。
様々な電磁波が温度計に影響を及ぼしている可能性があるため、温度計の数値が異常に変動する原因は地震に起因する電磁波以外にもあると考えられます。つまり、温度計の数値が異常に変動したからといって地震の前兆現象だと断定することはできません。疑似的な気温の異常変動を観測した結果と他の地震予測方法で得た結果を組み合わせることで、より精度の高い地震予測を実現することが可能になると考えています。
地震前兆としての疑似的な気温の異常変動(実例の紹介)
それでは、比較的大きな地震の前に、気温の異常変動を示した前兆の事例を紹介します。
画像右側にあるのは、熊本地震前に阿蘇山で観測された疑似的な気温の異常変動です。
赤く点線で囲われた部分が異常に変動した箇所ですが、前震の3日前4月11日の夜の20時~21時に気温が乱高下を繰り返しています。気温が上がったり下がったりが短時間の間に繰り返されているのは異常な変動です。阿蘇以外の地域の気温変動と比較しても、明らかに異常な変動であることがわかります。
北海道胆振東部地震の前にも気温の異常変動がみられました。深夜2時~早朝5時にかけて、気温が異常に上昇した後下がっているのがわかります。こういった、通常ではありえないような気温変化が温度計に出てくる事象を「疑似的な気温の異常変動」と呼び、地震の前兆現象として分析に利用しています。
今回は、地象リモートセンシングで観測できる前兆現象のうち
②疑似的な気温の異常変動
を解説いたしました。
次回の記事では、
③インフラサウンド(非可聴音)の異常波形変動
について解説していきます。