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地震前に起きる様々な前兆現象―測位衛星(GNSS)観測による地殻変動―

今回から、地震の前に起こっている前兆現象とその観測方法について解説していきます。

1.地震の前兆をとらえる「地象リモートセンシング」

地震の前には様々な前兆現象が現れることが知られています。

地震現象は地下の深い場所(浅くて10㎞、通常30~50㎞、深くて100㎞以深)の高温・高圧下で何らかの破壊活動により発生するものと考えられています。

地下深い場所を観測する科学技術はありませんので、地震が起きる地下のメカニズムは未知となっています。

地震そのものだけでなく、地震の前にも複雑な前兆現象が現れる事実は分かっています。

前兆現象が生じる理由は未知ですが、「前兆現象が存在すること」は科学的方法で事実として認知されています。

直接手に触れずに遠隔から現象を観測する技術を「リモートセンシング」といいます。

JESEA会長・村井俊治の専門分野であり、「MEGA地震予測」はこの技術に支えられています。「地震の前兆を観測する技術」をここでは「地象リモートセンシング」と呼びます。

地震の前に起きる前兆現象を地象リモートセンシングで観測しない限り、地震の予測は不可能です。

 

なぜ、「前兆現象」を観測しないと地震の予測ができないのか?

 

第一回の記事でもお伝えしましたが、従来の「地震学」では「地震予測」は不可能です。

地震学はあくまでも、「地震そのもの」を研究する学問です。過去の大地震のデータや、地震計で計測した実際の揺れから「地震とは何か?」を研究しています。

それは地震の発生メカニズムであったり、地震で発生する被害の研究であったりと内容は様々ですが、あくまでも「地震」に関する研究であり「地震の前兆現象から、地震発生を予測する」ことを本流とする学問ではありません。

もちろん、地震のメカニズムを解き明かすことは、人類にとって非常に意義深いことです。地震そのものの発生メカニズムが解明されれば、それに伴って、地震と相関の深い前兆現象の特定も進む可能性があります。

しかし、それでもやはり「地震学」が研究対象としているのは「既に起きた地震」です。「これから起こる地震」に備えるための「地震予測技術」は未だ発展途上であるといえます。

これは、天気(気象)の分野にたとえるとわかりやすくなります。

同じ気象現象「雨」を扱う場合でも、気象学者と気象予報士が行うことは異なります。

気象学者は、雨が発生するメカニズムや「雨とは何か?」「雨が降った結果、何が起こるか?」といったことを研究しています。

ここで大事なのは、「明日、雨が降るかどうか?」を「予測」しているのは気象学者ではなく、気象予報士だということです。

気象予報士は、全国の観測データや現在の雨雲の動き、気圧の配置などを分析して「明日、雨が降る確率は○○%です」という「予測」を行います。

気象研究でも、地震研究でも同様ですが、「現象そのものを研究する」ことと「将来、その現象が発生するかどうか予測する」こと、つまり「前兆現象を分析して、予測をたてる」ことは異なる技術なのです。

「予測」を行うには、「前兆現象を分析する」ことが不可欠です。

天気の例でたとえるなら、JESEAが行っているのは「天気予報」と同じ。

「前兆現象を分析して、予測をたてる」ことです。

 

2.地象リモートセンシングで観測できる前兆現象

地震の前兆として観測できる現象には様々なものがありますが、ここではその一部をご紹介します。

 

①測位衛星(GNSS)観測による異常地殻変動

②疑似的な気温(電磁波)の異常変動

③インフラサウンド(非可聴音)の異常波形

④低気圧通過に伴う地震誘発

⑤電離圏を通過するGNSS搬送波の擾乱

地震はとても複雑な現象ですから、「あらゆる可能性を排除しない」態度で取り組む必要があると、私たちJESEAは考えています。

それでは、これらの前兆現象の観測事例をご紹介しましょう。

 

3. 測位衛星(GNSS)観測による異常地殻変動

 

測位衛星というと「GPS」が有名ですが、一般的には「測位衛星システム」またはグローバル・ナビゲーション・サテライト・システム(Global Navigation Satellite System 略称:GNSS)と呼ばれています。

 

GNSSのうち、アメリカの測位衛星が「GPS」、ロシアは「グロナス(GLONASS)」、ヨーロッパは「ガリレオ」と呼ばれています。

 

これらは、地球の周りを周回している衛星から発信された電波を、位置を求めたい場所に置かれている受信機で受信して、受信機の三次元座標値を正確に求めるシステムです。

 

受信機の位置を固定しておけば、受信機の三次元の動きや変動が観測できます。つまり、地殻の変動を観測できるのです。

 

通常、地表は常に1~2㎝程度動いています。簡単に言うと10円玉くらいの大きさの動きをしています。ところが地下で地震の前に異常な前兆現象が起きると、通常の4倍以上の異常な変動をします。

 

前兆現象が発生する理由については未だ解明されていませんが、地震との相関を分析すると地震の前には必ず異常な変動を示すのです。相関分析および経験則から、高さ方向では1週間で4㎝以上変動すれば前兆現象として解釈して良い異常な変動です。

 

水平方向では変動量(矢印の長さ)と方向を分析し、周辺と比べその矢印の長さが異なる場合や向きが異なる場合は地震の前兆現象と解釈します。

 

約2年前と比較して、地殻が隆起または沈降しているか傾向を見ることも前兆観測には必要です。

特に地震の前には沈降が進行する時、もしくは一定期間の沈降から隆起に転じる時に地震が起きやすいです。

ここでは隆起沈降図と高さの変動のグラフを示して、大きな地震の前兆現象を見てみましょう。

 

東日本大震災前の隆起沈降

東日本大震災の約4.5か月前 東北地方の太平洋岸がやや沈降している

 

東日本大震災の約1か月前 沈降エリアが全国的に拡大している。

 

東日本大震災の3日前 沈降エリアが九州まで拡大している。

左図:前兆が観測された地点 右図:地震発生時の震度分布図

東日本大震災で観測された前兆(高さ変動)のグラフ

気仙沼に現れた前兆(プレスリップ)のグラフ

熊本地震前の隆起沈降

熊本地震の約6.5か月前 九州地方と中国地方がやや沈降している。東北地方の日本海側の沈降は東日本大震災の影響

熊本地震の約4.5か月前 沈降エリアが西日本に拡大している。

熊本地震の19日前 沈降エリアが減少、特に熊本地震の震源地周辺は隆起に転じている

左図:前兆が観測された地点 右図:地震発生時の震度分布図

熊本地震で観測された前兆(高さ変動)のグラフ

図をご覧いただければわかるように、地震の前には明確な前兆現象が発生しています。

東日本大震災(県内4点が異常変動を観測)

地震4ヶ月前:急激な沈降

地震2ヶ月前:急激な隆起

地震3日前 :急激な沈降(日本海溝に対し、直角の方向)

 

熊本地震(県内4点が異常変動を観測)

 

地震10日前:異常な隆起を観測

地震の前には前兆現象が発生しており、JESEAでは日々様々な前兆データを分析することで前兆現象をとらえ、予測を発信します。

今回は、地象リモートセンシングで観測できる前兆現象のうち

①測位衛星(GNSS)観測による地殻変動

を解説いたしました。

次回の記事では、

②疑似的な気温の異常変動

について解説していきます。

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