Opinion

インフラサウンドの前兆~地震の前に発振される非可聴音

執筆:村井俊治、JESEA取締役会長、東京大学名誉教授

【インフラサウンドで地震の前兆を観測】
~超低周波の音波は前兆を察知

インフラサウンドが地震の前兆になることを知ったのは、2016年7月にチェコのプラハで開催された国際写真測量・リモートセンシング学会(ISPRS)においてオランダの知人に会った時、北京工業大学でインフラサウンドを利用して地震予測をしているとの情報を得たことからでした。その後いろいろ調査をしたところ、中国の北京工業大学の地震研究所が実際にインフラサウンドセンサーを使って大地震の予測に成功していることを知りました。

インフラサウンドは人間の耳に聞こえる限界の周波数20Hz以下の低周波数の非可聴音を言います。なぜインフラサウンドが地震の前兆になるかと言えば、地震の前に地下の深い場所の高温・高圧下で岩盤などが破壊されたり強い応力を受けたりすると、電磁波だけでなくインフラサウンドも発振されます。高い周波数の音波は経路上の様々な物体や雑音に遮蔽されて遠くに伝搬されません。しかし低気圧・前線、火山噴火、地震波、津波、隕石落下、核実験、雷鳴、オーロラなどはインフラサウンドを発振して遠くまで伝搬されます。それも音波として理論的に温度15度の環境で伝搬される限界の周波数である0.00321Hzに近い超低周波のインフラサウンドの地震波なら津波、雷鳴、オーロラなどのインフラサウンドと区別されて地中や海水中も自由に遠くに伝搬されると言います。

この超低周波のインフラサウンドを感知する装置は軍事技術になっていて、地下の核爆発実験を監視するのに使われていると言います。残念ながらこのような超低周波のインフラサウンドセンサーを製造する技術も製品も当時の日本にはありませんでした。それが中国にはあるという情報を得ました。中国では0.0003~1Hzの超低周波のセンサーを使っていると言うのです。中国の音波研究所が製作して北京工業大学が昔から地震予測に使用していると言います。そこで元留学生に頼んで北京工業大学の地震研究所の陳教授に面会と視察を申し込み、2017年の1月に訪問することができました。

中国では一般市民に地震予測を出すことは禁じられていて、政府の地震局に地震予測を報告し、実際に的中したら国家から的中の証明書を授与されるといいます。北京工業大学の陳教授から過去に地震予測に成功し中国政府から18の地震予知的中証明書を授与されたと言われました。その中には1995年の阪神淡路大震災の予測も的中していたとのことで驚きました。

インフラサウンドが役に立った巨大地震は、2004年12月26日にインドネシアのスマトラで起きたM9.0の巨大地震、2008年5月12日に中国の四川省で起きたM8.0の巨大地震が含まれていました。インフラサウンドは世界中の地下および海中を伝搬しますので遠い場所の地震も予測できます。場所を特定するには最低3台以上のインフラサウンドセンサーを設置する必要があります。

 

【インフラサウンドセンサーの設置と観測】
~良い波形でいき値以上なら前兆

2017年に中国の北京工業大学を視察した時に、事前にインフラサウンドセンサーの購入を申し込んでいました。設置場所は室内で良く、東京都港区南青山のJESEAの会社の中に設置して2018年2月から観測を始めました。

最初はインフラサウンドの波形が出力されても、どのくらいの数値や波形が地震と相関が高いのか全く無知でしたので、北京工業大学の指導を受けて観測を続けました。地震予測に利用する前にまず得られた波形と実際に起きた地震とがどのような関係を有しているかの後追い検証を続けました。指導を受けながら分かってきたことは、ある数値以上に異常があり、良い波形の場合には地震の前兆になっていることが分かってきました。地震の波形とは異なりますが、火山噴火の際に発振される高周波の波形も記録されることも分かってきました。

波形を分類すると「良い波形」、「高周波の波形」、「上ぶれ」、「下ぶれ」の4つの波形に分類できます。いき値はある値以上を目安にすることにしています。経験値です。2018年に日本で起きた震度5以上の地震とインフラサウンドの異常値と波形との相関分析をしてみました。2018年3月から2019年1月まで起きた震度5以上の10個の地震について、地震の前に果たしてインフラサウンドのいき値を超える「良い波形」の応答があったかを後追いで検証しました。

後追い検証の結果は次の通りです。

  • 2018年3月1日: 西表島付近地震(震度5弱) 12日前「高周波波形」
  • 2018年4月9日: 島根県西部地震(震度5強) 18日前「良い波形」
  • 2018年4月14日: 根室半島南東沖地震(震度5弱) 7日前「良い波形」
  • 2018年5月12日: 長野県北部地震(震度5弱) 4日前「良い波形」
  • 2018年5月25日: 長野県北部地震(震度5弱) 11日前「良い波形」
  • 2018年6月18日: 大阪府北部地震(震度6弱) 3日前「良い波形」
  • 2018年7月7日: 千葉県東方沖地震(震度5弱) 16日前「良い波形」
  • 2018年9月6日: 胆振地方中東部地震(震度7) 19&1日前「良い波形」
  • 2018年10月5日: 胆振地方中東部地震(震度5弱) 4日前「高周波波形」
  •  2019年1月3日熊本県熊本地方地震(震度6弱) 20日前「良い波形」

上記の検証結果を見ると次のことが言えます。

  • 10個の地震の内、いき値を超えた値で「良い波形」は10回ありましたがその内8回が震度5以上の地震と相関がありました。「良い波形」の地震予測的中率は80.0%になります。
  • 波形の内、「上ぶれ」と「下ぶれ」の波形は震度5以上の地震と相関はないと言えます。
  • 「高周波」の波形は18回いき値を超えた事例がありましたが、そのうちの2回が震度5以上の地震と関係がありました。88.9%の「高周波」の波形は地震と関係がないことになります。「高周波」の場合、地震予測に使用しないとすれば、「高周波」による不的中率は20%となります。
  • 前兆が出た日にちは地震の前の20日前から1日前までばらついています。
  • まだ十分な数の地震の検証は完了していませんが、いき値を超えて「良い波形」の異常が出たらほぼ20日以内に震度5以上の地震が起きる可能性は約8割で的中率は高いと言えそうです。
  • 1台のみのインフラサウンドセンサーでは地震が起きる場所の特定には役立ちませんが、「いつ」大きな地震が起きると言うことが予測できることだけでも大きな進歩と言えます。

 

【地震の前の鳴動】~文書に記録された地震前の鳴動

鳴動は地震波の波動が空中音波になって伝搬されたものです。地震数日前に聞こえる鳴動と、地震直前に聞こえる鳴動があります。鳴動は人間の耳に聞こえますからインフラサウンドではないです。インフラサンドなら「耳に聞こえない鳴動」となります。

地震直前の鳴動はおそらく地震の縦波(P波と呼ばれる)が横波(S波と呼ばれる)より早く伝搬されるときに一緒に送られた空中音波です。このような地震の直前の鳴動または地鳴りは地震そのものです。前兆になる鳴動は、ここでは地震の数日前に聞こえるものを言うことにします。

以下に地震の数日前に聞こえたとされる鳴動の事例を紹介します。

  • 1854年三重県の伊賀市で起きた伊賀上野地震は7月7日に前震があり、2日後の7月9日に本震(M7.25:阪神淡路大震災とほぼ同じ)がありました。嘉永から安政に改元される直前に地震が起きたために「安政伊賀地震」とも呼ばれています。死者は995名と被害は甚大でした。本震の3日前から鳴動があったとされています。
  • 1872年3月14日に島根県浜田市沖を震源とする浜田地震(M7.2)が起きました。死者は551名と被害大でした。地震の1週間前から地鳴りがあったとされます。特に地震の4,5日前から地鳴りは大きくなったと言われています。
  • 1949年12月26日に栃木県今市市(現日光市)を震源とする今市地震(連続してM6.2 とM6.4に地震あり)が起きました。最大震度は6ぐらいあったと推定されています。死者は10名でした。地震の数日前から地鳴りがあったとされています。数か月前からあったと言う報告もありますが、少なくとも数日前には地鳴りは確実にあったと思ってよいでしょう。
  • 1965年8月3日から約5年半も続いた松代群発地震は有感地震が6万回以上ありました。震度5が9回、震度4が48回、震度3が413回、震度2が4,596回、震度1が56,253回と多数回ありました。群発地震と連動して鳴動が聞こえた報告が多数寄せました。特に震源の近いところで鳴動が聞こえたようです。気象庁松代地震観測所の特設ページでは地鳴りの録音を聞くことができます。ただし、これは群発地震の発生期間内に起きていたので前兆となる鳴動か地震波そのものの鳴動かは不明です。
  • 2016年4月16日に起きた熊本地震の時に大きな地鳴りが聞こえた動画がありましたが、地震直前でしたので、地震波そのものでした。
  • 2019年4月11日に起きた三陸沖地震(M6.0、震度3)の前日に地鳴りが聞こえたという情報が複数回報告されています。おそらく鳴動の一種と思われます。

私の見解は以下の通りです。気象庁などからは地震の前兆としての鳴動または地鳴りは否定されていますが、地震の数日前に鳴動または地鳴りがあったと言う事実は残りますので、科学的に解明されていないという理由だけで一概に否定してはいけないと思います。前兆に相当する現象には地震を起こす「素因」と誘発する「誘因」があります。地震は「素因」がない所には起きません。「素因」だけでも起きません。「素因」に「誘因」が重なっておきます。鳴動または地鳴りが「素因」か「誘因」かは判然としていませんが、地震の前に起きる現象であることは確かです。少なくとも鳴動や地鳴りが聞こえたら地震が来るかもしれないと心の準備をする価値はあると思います。

 

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