はじめに
著者は電子基準点データの分析から地震予測をしているが、巨大地震の地震後の挙動についても電子基準点データを利用して地震による異常変動を分析している。2016年4月16日に起きた熊本地震(M7.3、震度7)の地震後の挙動を分析したところ、あるブロックごとにほぼ均質な動きをしているのを発見した。このような類似性のあるブロックをここでは地体と呼ぶことにする。電子基準点データのXYZの三次元データの週毎の変動を利用してクラスタリングによる地体区分を試みた。日本列島の地体区分から類似性のある地体が浮かび上がり、断層などの線構造から、地体という面的な構造を利用することで地震予測に大きなツールになることが明らかになった。
地体クラスタリング
2016年の1月から39週分のXYZデータを用いて、ニューラルネットワークの自己組織化マップの技法を発展させ、電子基準点データのXYZの変動成分の類似性を利用して25クラスタに分類した。25区分は色表現した時に色の区別が容易な区分数であるという理由で決めたもので自由に変更可能である。色表現は図に示す配色を使用した。類似性色のクラスタは互いに類似性が高いと言える。日本列島を25クラスタに地体区分をした結果を下図に示す。
地体区分で見えてきたもの
25のクラスタを全体的にみても類似性はよくわからないので地体クラスタごとに分けて紹介する。ここでは興味のあるクラスタを取り上げ、日本列島がどのような地体のクラスタに分かれているかを見てみよう。
北南変動図
北南変動図を見ると、北東の線を境に北側は北変位をしているのに対し、南側は南変位をしており北南成分だけで見ると、互いに引っ張り合っている構図になる。その境目はストレスが大きく、被害は大きかったと推定される。
結論
三次元電子基準点データの変動をクラスタ区分することで新たな地殻変動の類似性が明らかになり、日本列島の地体が浮かび上がった。従来の地質構造とある程度の類似はあるが、全く新しい発見もあった。図には示さなかったが、沖縄本島と奄美大島以北の鹿児島県は異なる地体であるなど、地震予測に地域性を考慮するうえで役に立つ。
JESEA 名誉会長 東京大学名誉教授
村井 俊治