自然災害が発生した際、組織はさまざまな判断が求められます。それが学校となれば、未成年の子供たちを、大人として守る義務も生じます。そのなかで、どのような災害対策が講じられているのでしょうか? 國學院高等学校 津田 栄校長にお話を聞きました。
学校には、子どもたちを守る使命がある
――先日、大型の台風15号が関東を襲いました。自然災害が発生した際、学校はどのような判断が求められるのでしょうか?
本校は私立ということもあり、遠方から通学している生徒が多く在籍しています。先日の台風のケースは、週末に直撃したため、「月曜日に、生徒たちは学校に来ることができるかどうか」という判断が求められました。
私たちが調べた範囲では、公共交通機関も早朝を除けば、動いているようでしたから、通常より登校を遅らせ、13時としたのですが、それでも半数の生徒は来ることができませんでした。
その原因はさまざまですが、生徒の中には、停電のあった千葉県から通っている生徒もいたことを考慮すれば、「休校」とすべきだったと現在は考えています。これを機に、本校では「振替日」を作成し、災害時には休校とし、授業を振り替えられる体制を整えました。
――台風は事前に察知できるため、前もって準備ができました。しかし2011年3月に発生した東日本大震災のように、突然の自然災害に対しては、どのような対応を取られたのでしょうか?
地震が発生したのは14時46分。当時、校内には合わせて400人の教職員と生徒がいました。すぐに公共交通機関は動いているかを確認し、さらに帰宅時の被災を考慮し、余震の可能性についても確認しました。
まず、電車は止まっていましたので、全員を体育館に避難させました。次に地域の飲食店と連携し、800個のおにぎりを用意しました。その日は全員、体育館に宿泊。翌日、自宅の方向が同じ生徒をグループにし、帰宅させました。
もしあの日、夜になって電車が動いていたとしても、生徒を帰すことはしていません。なぜなら、その途中で余震が発生し、電車が再び止まってしまっては、生徒を安全に自宅に帰すことができないからです。
企業と学校が大きく違うのは、「子どもを預かっている」という点にあります。大人ならば自分で解決できることもありますが、子どもは絶対的に大人が守ってあげなければいけない存在です。その分、判断もより繊細さが求められます。
不測の事態に備え、「備蓄」と「情報収集」は不可欠
――東日本大震災を機に、地震への意識に変化はありましたか?
大地震を自分たちも体験したことで、教職員全員、地震への危機意識は高まりました。また、その前から水などの備蓄はしていましたが、非常食に対しては考え方を若干あらためました。
非常食にも賞味期限がありますから、いつかは破棄しなくてはなりません。であれば、「日常食を非常食に活用できる準備」をすることの方が経済的ですし、地球環境にも優しいと考えるようになりました。
具体的には、近隣の飲食店と連携し、「非常時における食事の提供」の契約を結び、協力体制を構築しました。また、災害時は教職員や生徒だけでなく、たまたま近くで被災してしまった人もいるでしょうから、地域全体で協力し、さまざまなケースに備えておくことも重要だと考えています。
――地域の飲食店の連携以外にも、東日本大震災を機に、講じられた対策はありますか?
これは本校だけでなく、すべての学校がしたことですが、災害時における対応マニュアルの策定、見直しを実施しました。なぜなら東日本大震災を機に、学校保健安全法 第29条(危険等発生時対処要領の作成等)に則り、学校防災マニュアルの作成が国から求められたからです。
しかしどの学校も、「法律だからやらなければ」という意識ではなく、本気で生徒たちを守るためにどうすべきかを考え、地震と向き合い、不測の事態に備えています。
そのために「備蓄」と「情報収集」は不可欠だと考えています。しかし東日本大震災のあと、地震学会が「地震予知はできない」と発表しました。これを受け、どうすれば地震の情報を得られるだろうか、と考えるようになりました。
――そのなかで、MEGA地震予測を知ったのですね。
はい。情報の重要性については、私は趣味である山登りを通じて、実感する機会が多くあります。山の天気は変わりやすく、前もってさまざまな準備が必要だからです。
加えて、私は個人的に、詳細な天気情報を得られる有料アプリを契約し、登山に活用しています。非常によく当たるので、調べてみると、このアプリの強みは「データ量と、分析の正確性」にあることがわかりました。
そのことから、私は「豊富なデータ」と「正確な解析力」があれば、地震の予知こそできないが、“予測(可能性の示唆)”はできるのではないかと考えるようになりました。そんなときに、多角的な視点で地震分析を実施している「MEGA地震予測」に出会いました。
MEGA地震予測は、判断材料のひとつ
――貴校は今後、「MEGA地震予測」をどのように利用していくお考えなのでしょうか?
大地震が発生した際には、さまざまな判断が求められます。そして常に、最適解を導き出さなくてはなりません。そのためには、判断材料となる情報は多い方がいいと考えています。
MEGA地震予測の精度は現在、100%という段階にはありません。それでも豊富なデータ量と精度の高い分析力を有していますから、東日本大震災の際のような“明らかな異常”が発生した際には、大地震が発生する可能性があることを教えてくれると期待しています。
それを事前に教職員たちと情報共有し、「もしかしたら大地震が起きる可能性がある」ということを話しておくだけでも、いざ発生した際の行動は必ず変わってきます。
決して誤解していただきたくないのは、本校は「MEGA地震予測の情報のみを信用し、判断することはない」ということです。判断材料のひとつとして、活用していくということです。
私自身も幼少時代に、地震に遭遇し、津波が押し寄せる恐怖はいまも脳裏に焼き付いています。ですから、生徒たちには絶対に、同じ思いをさせたくないと考えています。
また登山では、山の斜面を滑ってきた10センチの雪が人に当たるだけで、人は立っていられないほどの衝撃を受けます。こうした経験から、私は「自然の恐ろしさ」を深く理解しているつもりです。
心配性だという方もいるかもしれませんが、自然の脅威については、それほど警戒し、常に準備をしておくことが校長としての私の務めだと考えています。
――MEGA地震予測(JESEA)は今年、新たな“予兆現象”を発見し、その研究が進めば、“地震予知”が実現できる可能性もあると考えています。もし地震の予知ができるようになったとして、その情報をどう利用したいですか?
まずは全教職員、生徒にそのことを周知し、地震発生当日は、休校にするでしょう。なぜならまずは、身の安全がいちばんだからです。
次に被害の状況を把握し、いつから学校を再開するかという判断が必要になると思いますが、それは被害の大きさなどによって変わってきますから、一概には言えません。近隣のビルに倒壊のおそれがあれば、生徒をそこに近づけることも危険ですから、たとえ公共交通機関が再開していても、休校にする可能性もあります。
少しの準備が事故の予防につながる
――最後にMEGA地震予測の利用を検討している個人ならびに、法人に向けて、メッセージをお願いします。
登山をしていると、ひとつの忘れ物が大きな不利益を生むことがあります。たとえばマッチひとつ忘れるだけで、火をつけることができず、何かを温めたいと思っても、対応できなくなってしまいます。
ですから私は、使うかどうかわからなくても、「何事も準備することが重要」だと考えています。井戸や大型発電機などはその好例と思います。非常時を想定してのものですから、普段、使うことはありません。
よく「少しの油断が大きな事故につながる」といいます。ならば「少しの準備は大きな事故の予防につながる」のではないでしょうか。設備だけでなく、日頃からさまざまな情報を収集することも、“準備”のひとつです。
MEGA地震予測を活用することは、その一環と考えることができるのではないでしょうか。
國學院高等学校 校長
津田 栄
取材協力:國學院高等学校 / 取材・文:赤坂 匡介