大きな地震が発生すると、火災が発生するケースが多くあります。しかしなぜ、地震が起きると火災が起きやすくなるのでしょうか?
創業1966年、“総合防災”をテーマにさまざまな防災サービスを展開している相日防災株式会社の防災士・小松正幸さんに、「地震発生時において起きる火災のこと、そして自身が被災地を訪れて感じた地震の脅威」についてお話を聞きました。
地震発生時に気をつけたい「通電火災」
――早速ですが、地震が起きるとなぜ火災が起きやすくなるのでしょうか?
もし家庭で調理中に、地震が発生した場合、コンロの火を消すことが出来なければ、火災発生のリスクとなります。
コンロの目の前であれば、火を消して、速やかに机の下などに行き、身を守る。コンロから離れた場所にいる時は、揺れが収まるまでは身を守り、揺れが落ち着いたら火を消すことをお勧めします。
もしかすると、震災を経験したことのない方は、「まずは火を消さなくては」と思うかもしれませんが、震度7クラスの地震に襲われると、まずその場に立っていることができませんし、とてもそんな余裕はありません。だから身の危険を冒してまで、コンロに近づいたり、消火活動をするのではなく、まずは身の安全の確保が最優先となります。
油は360℃を超えると発火する性質を持っています。コンロの火を消すことができず、もし発火しても、パニックになってはいけません。慌てて水をかければ油が爆発して飛び散るおそれもあります。落ち着いて、消火器を使って消火しましょう。
――まずは「身の安全を守ること」が大事なのですね。他にも自宅で被災した際に、火災が発生するケースはあるのでしょうか?
はい。電気ストーブやオーブントースターなどの電熱器具は、使用中に地震が起こると、揺れの影響で可燃物がヒーター部分に接触した状況になることがあります。その状態で、停電を経て再度通電すると、可燃物に燃え移り、出火してしまうことがあります。
これを「通電火災」と言います。阪神・淡路大震災では、神戸市内で157件の建物火災が発生しました。そのうち原因が特定できたものだけでも、33件が通電火災であることがわかっています。
また石油ストーブを使っていた家庭では、地震によってストーブが倒れ出火したケースもありました。
つまり大きな地震が発生した際は、身の安全を確保したのち、火元の確認、電熱器具や暖房器具についても状況を確認し、避難する際は必ず電気のブレーカーを落としてから避難することが重要なんです。
熊本地震を通じて知った、地震の恐ろしさ
――小松さんは2016年に発生した「熊本地震」では、ボランティアで炊き出しを行ったそうですね。その中で学んだことはありますか?
防災士として、地域に貢献したいという思いは常に持っていましたが、現場を体験したことはありませんでした。ですから、熊本地震の際の炊き出しが、私にとって初めての現場でもありました。
そこには、地震によって、すべてを失ってしまった方もいました。私は、その方たちにどんな言葉を掛ければいいのかわかりませんでした。ただ、少しでも明るい気持ちになってほしいと思い、笑顔でいることに努めました。なかには「ありがとう」と声を掛けてくださる方もいて、防災士として、誰かの役に立つことの尊さ、大切さをあらためて再認識する機会となりました。
――同時に「地震に備える」ことの重要性も痛感したのではないでしょうか?
そうですね。私には家族がいますが、地震が起きたときに、私が側にいられる確証はありませんから、しっかり非常食を備蓄しておかなければと思いました。
現在、非常食の備蓄量として推奨されている7日分は常に用意しています。また断水したケースにも対応できるよう、非常用トイレは30日分と多めに備えています。
さらに通信インフラが停止しまった場合に備え、今後は安否確認のルールも設けようと思っています。毎朝、同じ時刻、同じ場所で待ち合わせをする。これなら電話ができなくても、会うことができますよね。もちろん、これが正しい答えとは言い切れません。震災によって、その場所に立ち入れなくなる可能性だってあるわけですから。
やり過ぎも十分もない「地震への備え」
――絶対的に正しい答えのない「地震への備え」。どんな点に注意すべきでしょうか?
正解がない以上、まずはそれぞれの事情に合わせた“備え”について考えることが大切です。そこに、やり過ぎは存在しません。しかし同時に、「これで十分」という線引きもありません。
地震を経験したことのない方の中には、「何とかなるだろう」と思っている方もいるかもしれません。しかし現実はそんなに甘くありません。何の備えもなしに被災すれば、困難の連続です。
私が炊き出しで熊本を訪れた際に感じたのが、衛生環境の悪さです。人手不足からか、トイレはきれいとは言えず、汚物も処理されず、ひどい悪臭がしていました。仕方がないことではありますが、私たちの普段の暮らしからすると、信じられない状況ですよね。それが震災時には、普通に起こり得るんです。
「地震の備え」をすることは、未来の安心につながります。非常食や非常用トイレなど、さまざまな防災グッズがあります。ぜひこの機会に“何を備えるか”について、考えてみてもらえるとうれしいですね。
相日防災株式会社 課長補佐 / 防災士
小松 正幸
取材協力:相日防災株式会社 / 取材・文:赤坂 匡介