2019.12.26
地震の時だけでなく、地震の前にも地球が動くことを13年前に発見した。動く地球を測量するには、動いている地球の上では地球の動きは測量できないので、地球の外を周回している測位衛星から地球の動きを測量する必要がある。
国土地理院は1994年から現在までに約1300箇所に電子基準点を整備し、日データをインターネットで無料公開をしている。これほどの密度で測位衛星(GNSS)データを整備している国は日本以外にないほど世界に誇るものである。
電子基準点は地盤の上、つまり地表に設置されており、地下の深い岩盤の地殻の動きだけでなく、地下水位、潮汐、豪雨、豪雪、水蒸気、気圧、電離層、ダム、鉱山など様々な要因の影響を受ける。これらの誤差要因を補正して本当の地殻だけのデータにしなければ地震予測に使用できないと指摘するのは理学的発想である。地震は地殻の影響だけでなく、地下水位、潮汐、豪雨、豪雪などがトリガー(引き金)になって起きるのであるから、これらの諸々の要因が含まれているデータの方が地震予測に役立つ実用データと解釈するのが工学的発想である。
実用データと思われる電子基準点データと実際に起きた地震 との関わり(相関)を162個のM6以上の地震に対して解析したところすべての地震の前には何らかの異常な変動(前兆と呼ぶ)が存在することを検証した。
地震発生のメカニズム、理論、活断層、プレート、トラフなどを一切考慮しないで、純粋かつ単純に電子基準点の前兆から地震発生に繋がると思われる異常を発見し、地震予測の診断を行うアプローチを採用した。地下の深い場所で起きる地震の前兆が地表に現れることを発見した。
2011年3月11日に巨大地震が発生する約1か月前に電子基準点データの傾向分析から信じられないような異常が出たことは把握していた。しかし当時の分析は幼稚なものだったので、今回改めて最新のツールを利用して、2011年1月1日~3月10日(直前の日)および1月1日~3月31日(3か月)の日々データの解析を行った。地震日のデータを入れると地震時の変動が大きすぎて事前の変動が読めない箇所は直前の3月10日までを対象にし、地震時のデータを入れても変動が読める場合には3月31日までを対象にした。週平均データの解析は地震直前の週(2011年2月27日~3月5日)と直後の週(3月6日~12日)の2週分を対象にし、2009年1月1日を起点とした相対的な変動を解析した。
東日本大震災で一番大きく動いたのは宮城県にある「牡鹿」の電子基準点であるので、2011年1月1日から3月10日までのH(楕円体高)および地球中心座標であるXYZの日々データをグラフに表示した。最も大きな変動を示したのはYの座標であった(図1参照)。
Y軸は赤道面の東経90度の方向である。Yの値が減少(マイナス方向)することは日本から見ると東方向成分が多く、沈降成分が大きいことを意味する。実際に牡鹿は地震直後に水平方向で東南東方向に5.3m動き、垂直方向に1.1m沈降した。地震直前の3日間に急降下したことはプレスリップ(前兆滑り)があったことを物語る。この急変をリアルタイムで計測できれば地震予測は将来発展するであろう。
地震時の沈降の様子を見るために宮城県の電子基準点のH(楕円体高)の変動をグラフ化した(図2参照)。牡鹿が1.1m、女川が85㎝沈降した。宮城県のHは地震後右肩上がりで隆起していることが分かる。
地震直前の週では北海道から四国に至る太平洋岸では2年前に比べて西方向に変動していた。一方日本海側は東方向に変動していたことが全国の東西変動の段彩図を作成して判明した。地震直後の週は北海道の根室・釧路地方と四国の岬部(室戸岬および足摺岬)は西方向に変動したがその他のエリアはすべて東方向に大きく変動した。特に東北地方、北関東および新潟県は大きな東成分の変動をした。
地震直前の週では北海道の根室地方、房総半島南部、四国南部は北成分の変動があった。その他のエリアはすべて南成分の変動であった。地震直後の週では北海道の根室・釧路地方、南関東(千葉県、神奈川県、東京都)、四国の高知県が北成分の変動をしたのに対し、それ以外はすべて南成分の大きな変動をした。特に東北地方は大きい。
地震直前の週では東北・関東の太平洋岸、北信越、中国地方、九州、四国室戸岬は沈降傾向だったのに対しその他のエリアは隆起傾向だった。地震直後の週では北海道の日高・十勝平野、秋田県、高知県足摺岬以外はすべて大きく沈降した。
富士山(最高地点)および南鳥島(最東端で唯一太平洋プレート上の点)の2011年1月1日から31日までのYの変動(一番大きな変動)をグラフ化した(図3および図4参照)。
巨大地震の直前に異常な急変(前兆とプレスリップ)が見られたこと、地震前に北西に動いていた東北地方が地震後大きく南東に動き大きく沈降したこと、地震以後東北地方は隆起を続けていること、富士山や南鳥島などの特殊な位置の点でも地震時に大きく変動したことが検証された。